2016 Fiscal Year Annual Research Report
The human rights protection functions of the UN Human Rights Council's Special Procedures
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25380058
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
今井 直 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (70213212)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国連人権理事会 / 特別手続 / 市民社会的メカニズム / LGBT / 人権理事会と総会の関係 / 自国優先主義の影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年も、特別手続は全体として(国別13、テーマ別43)、65ヶ国96回の現地訪問調査(前年は53ヶ国76回)、119ヶ国、23の非国家主体に対する計526件の通報送付、461の報道声明・発表を行うなど、国際的なレベルで市民社会の目的やニーズに応じた人権擁護機能を遂行している。 28年度は当該課題の研究の最終年度なので、特別手続を国際人権保障総体の中に正確に位置づけるという作業を試みた。その観点から興味深い出来事は、LGBT(SOGI)に対する暴力・差別からの保護に関する特別専門家をめぐる、人権理事会と総会における諸国のせめぎ合いであった。2016年6月の理事会決議で僅差で新設されたこの特別手続に関して、総会(とくに人道・人権問題を審議する第3委員会)において、当該理事会決議を停止しようとする前代未聞の決議案がアフリカ諸国、イスラム諸国等から提出され、7票差でその試みがしりぞけられた。この一連の動きは、いまだ国際社会全体としては諸国の立場に顕著な相違が見られるLGBTの諸権利の明確化とその実現について、特別手続が国際人権保障を推進する役割を委ねられたことを意味する。と同時に、人権理事会と総会の関係のあり方という国連人権メカニズム相互間の難題も合わせて顕在化させた。こうした困難な状況を背景として、LGBTに関する特別手続がどのように機能するのか、今後十分に注視する必要がある。 また、2016年は、従来国際社会において人権を推進する中心的な勢力であった欧米諸国に「自国優先主義」の大きな波が押し寄せた。人権理事会ひいては国際人権保障全般にもこの影響は軽視できない。国際人権保障が国際政治の背景と力学に大きく影響されることはその歴史が如実に示しており、ある意味、専門家やNGOが担い手である市民社会的メカニズムとしての特別手続にとってその力量が真に試される局面にあるともいえよう。
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