2015 Fiscal Year Research-status Report
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25380068
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中川 寛子 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10301863)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 排除行為 / 排除効果 / 人為性 / 識別(identification) / 略奪型行為 / RRC型行為 / 独占禁止法 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.平成27年度は、平成26年度から引き続き進めたRRR(Reducing Rival's Revenue)類型に関する研究と、占有率リベートに関する研究を進めた。両者ともに、価格設定という側面を持ちつつも、略奪型というよりはRRC(Raising Rival's Cost)型としての側面に着目して違法性判断を行うことが適切であろうとの考察に至っている。すなわち、略奪価格理論に基づく違法性判断が適切とはいえない類型であると考えられることから、本研究の目的である、略奪価格理論の射程を明らかにすることについて、大きな手応えを得ている。 2.題材としては、(1) JASRAC私的独占事件の最高裁判決、(2)米国及びEUの占有率リベート事件、に焦点を当てて研究を進めた。(1)については、独占禁止法2条5項の「排除行為」要件に関する解釈論が問題となったが、前年度研究対象とした高裁判決とは異なり、最高裁判決においては、傍論の形は取っているものの「正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性」の要件該当性についての重要な示唆が示され、排除効果要件との関係性について、学説上議論が生じた。 3.人為性要件については、排除効果要件と一体として評価されるべきことは多くの見解の一致を見るものの、両者が概念的に同一のものか、その評価のあり方について、といった点で議論に混乱が見られたため、その整理を試みた。すなわち、排除効果と人為性とは別の概念ではあるものの、評価根拠事実が共通することや排除効果発生を示す事実が人為性認定の根拠となる場合もあることを示した。かかる考察に際し、(1)の類型が(2)の占有率リベートと非常によく似たメカニズムを有することから、(2)の研究から大きな示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.主にJASRAC事件を題材としつつ、独占禁止法2条5項の排除行為要件解釈論を深めることができた。その際、同事件で問題となった行為は価格設定行為ではあるものの、RRC型としての反競争効果発生メカニズムに着目した評価を行うことが適切な類型であるがゆえに、略奪価格理論の射程・限界を示すという本研究の目的達成に、一層近づくことができた。また、同事件行為にかかる理論的考察を行う際に、本来予定していた占有率リベート事件やそれに関する欧米の判例・学説の理論を比較することが、非常に有益であったことは先にも述べたとおりである。 2.平成26-27年度の研究対象であるRRR型の特定の包括料金設定については、価格設定行為ではあっても利潤犠牲が全く見られないため、略奪価格理論に基づく規準、とりわけ代表的規準である利潤犠牲規準の適用は不適切な判断結果を招くとの見解に達した。 3.占有率リベートについては、RRC型・略奪型いずれとも評価しうる。そのため、いずれの基準を用いるべきかが重要となるが、欧州では、排他条件付き取引と同様のRRC型として捉え規制に積極的であるが、米国では、略奪的価格設定と同様の略奪型行為と捉え、価格競争としての望ましい効果を重視するため規制に慎重である。このように欧米で適用基準も異なるうえ、当該行為による利潤犠牲の有無についても、機会費用で見るか否かによって事案ごとに相違があるため、いずれの規準を適用すべきかについては、より一層の検討が必要となる。 4.人為性に関する理論的研究に重きをおいたため、ここでは非常に大きな発展を見た一方で、原価計算と経済学的費用との整合にかかる研究はさほど進めることができなかった。 5.以上、略奪価格理論の射程につき理論面で大きな進展を見たものの、課題も残されているため、(2)に分類することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.平成27年度までの研究により、略奪価格規準、中でも代表的な利潤犠牲規準について、RRC型の側面・特徴が強い行為類型については、利潤犠牲規準を適用することが適切でない場合が多いとの考察に至った。そこで、平成28年度においては、利潤犠牲規準を中心に、経済的有意味規準及び同等効率事業者規準にも触れつつ、略奪価格規準の射程について、これまでに検討した類型ごとに一層明確にするとともに、そこから適用にかかる条件についての一般的法則の解明を試みたい。これは、本研究のまとめとしての位置づけとなる。 2.具体的題材としては、平成27年度に引き続き、欧米の占有率リベートの判例及び学説(言うまでもなく経済学研究を含む)を主たる対象とする。同時に、RRC型行為としての反競争効果発生について典型的に取り上げられる、排他条件付き取引についての研究に着手することにより、典型的な略奪型行為との比較を行い、研究の深化を試みる。方策としてはいうまでもなく、文献の渉猟が中心となる。また、占有率リベート、排除行為の人為性にかかる先行文献のある、京都大学の川濵昇教授、早川雄一郎講師とのディスカッションも有益と考えている。 3.多少遅れている会計的費用と経済的費用との対応関係、及び、略奪的高価格に関する研究も併せて行う。 4.全体としてこれらの研究は、排除行為要件における人為性の判断規準にかかる基礎となる。欧米での正常な競争行為と不当な競争行為との「識別(identification)」にかかる議論に相当するものであり、日本での人為性・識別にかかる研究として、次の課題への拡大的発展につながると考えている。
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Causes of Carryover |
前年度から引き続き研究を進めていたRRRの一種である包括料金行為が持つ反競争効果発生のメカニズムについて、より一層の資料の検討が必要となった。この際、計画で予定していた占有率リベート等の研究を並行することによって、略奪価格規準の射程の明確化に関する研究を進めることができた。一方、研究を進めるにつれ、当初予定していた海外出張を行うよりは、略奪価格基準を用いると不都合が生ずる場合についての文献、及び、人為性に関する欧米の文献資料のより広範な収集・読み込みが必要と考えられたため、H27年度中に予定していた米国での意見交換を次年度に延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度には、予定していた米国出張及び欧州出張を行う。また、略奪価格理論のより精密な射程を探るため、不当な競争行為と正常な競争行為との識別(identification)一般にかかる、より広範な資料・文献収集と分析・検討を行う。
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Research Products
(2 results)