2016 Fiscal Year Research-status Report
イギリスの領土紛争としてのフォークランド戦争の研究
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25380179
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
梅川 正美 愛知学院大学, 法学部, 教授 (30135280)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フォークランド / 領土 / 戦争 / 外交 / 安全保障 / 内閣制度 / 英米関係 / サッチャー |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度(平成28年度)は、5年間の研究期間のうちの4年目にあたった。この年度での目的は、第1に、資料収集と、第2に文献収集と、第3にイギリスの研究者との交流、第4に執筆であった。 第1の資料収集については、平成28年(2016年)8月22日から30日にかけて、イギリスのウォリック大学現代史資料館で、資料収集を行った。前年度までに、ロンドンの公文書館での内閣関係の資料については、ある程度の収集を行ったので、今年度は、戦争に関する一般市民の反応を中心に資料収集した。現代史資料館が保存している、船員組合の資料や、市民の反応の資料を入手した。これらの資料は、フォークランド戦争が、持っていた、これまで、問題にされてこなかった重要な点を示している。第2の文献収集については、フォークランド戦争の具体的な事実を集積した文献は、前年度までに、ある程度収集したが、本年度は、戦争の一般論および、戦争と平和の関係の哲学的な文献の収集を行った。 第3のイギリスの研究者との交流については、ウォリック大学のマッケルダウニー教授と、エディンバラ大学のヒムズワースの教授たちとの交流をつづけた。第4の執筆については、共編著1冊、論文3本を発表した。共編著はフォークランド戦争にいたるイギリスの政治文化についての本『現代イギリス政治史(第2版)』であり、論文は、フォークランド戦争開始のきっかけに関する論文「フォークランド戦争の兆候(2)」、および、フォークランド戦争によって増幅されたナショナリズムの一つの帰結としてのEU離脱についての論文「イギリスのEU離脱と政治機構」、さらに、フォークランド戦争にいたるイギリスの政治文化についての論文「マグナ・カルタ800周年を日本で考える」である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に資料収集、第2に文献収集、第3にイギリスの研究者との交流、第4に執筆の順にのべる。第1に、資料収集である。ウォリック大学現代史資料館で収集した資料MSS175A-145およびMSS175A-146さらにMSS175A-147のファイルは、フォークランド戦争に関する、市民側からの反応のひとつである。これらのファイルの内容資料を、写真撮影したが、その枚数は、全部で2909枚にのぼる。 第2に文献収集については、戦争と平和に関する哲学的な研究について、これまでの古典を含めて、基礎文献を収集した。例えば、G.M.Reichberg(ed.), The Ethics of War, Blackwell, やHugo Grotius, The Rights of War and Peace, A.M.CおよびRichard Tuck, The Rights of War and Peace, Oxford UP などをはじめ、その数は、数十冊にのぼる。第3のイギリスの研究者との交流については、マッケルダウニー教授と、ヒムズワースの教授たちとの交流をつづけている。 第4の執筆については次のものである。1:「フォークランド戦争の兆候(2)」(愛知学院大学論叢『法学研究』57巻3・4号、1-18頁)。2:フォークランド戦争以来のナショナリズムについての「イギリスのEU離脱と政治機構」(愛知学院大学論叢『法学研究』58巻1・2号、1-30頁)。3:フォークランド戦争の背景についての『現代イギリス政治史(第2版)』(ミネルヴァ書房、297頁)。4:フォークランド戦争の文化的背景についての「マグナ・カルタ800周年を日本で考える」(愛知学院大学法学部同窓会『法学論集』第5巻、359-379頁)である。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度(平成29年度)は、5年間の研究期間のうちの5年目にあたり、最終年度となる。本年度の目的は、今後の出版のための準備である。そのために、第1に最終的に必要な文献の収集と、第2に論文の執筆をおこなう。これまでの4年間の研究で、フォークランド戦争をおこなうにあたっての、内閣の指導体制や、戦争への突入の契機などについて調査してきた。さらに、4年目には、船員組合をはじめとする市民たちの戦争認識をしらべてきた。これらについては、まだ大きな著作は出していないが、2019年度以降、まとめて書く計画である。 2013年度に、本研究を始めたときの問題関心は、日本が、中国との領土紛争や、韓国との領土紛争などに直面しているなかで、イギリスが領土紛争を解決した方策をしらべて、日本の打開策のために役立てたいという点にあった。日本は、現在の2017年時点で、まだ戦争には突入してはいないが、その政治意識の中には、戦争が登場しはじめている。この意識は、戦争の開始や回避に、どう関係するか、この点の解明が、きわめて重要になってきている。そこで、戦争にいたる意識としてのナショナリズムの問題、あるいは国家主義の問題、さらには、戦争と倫理の問題、戦争と正義の問題などを、正面から問題にして、研究したい。 そこで、第1の文献収集は、戦争と倫理関係の哲学的なものを中心におこなう。第2の、論文執筆については、フォークランド戦争をささえた、ブリティシュ・ナショナリズムは、どのようなものであったか。現代のEU離脱をするナショナリズムとの関係は何か。スコットランドの独立を引き起こすナショナリズムとは、どう関係するか。現代日本のナショナリズムとの関係はどうなるか。このような論点について述べる論文を書くつもりである。2018年以降になるが、この点の出版について考える。
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