2013 Fiscal Year Research-status Report
植民地制度と標本:博物誌研究に占める島と植物園・博物館の役割の検討から
Project/Area Number |
25380196
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
尾立 要子 神戸大学, 学内共同利用施設等, 講師 (30401433)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 文化政策 / 植民地政策 / 博物館 / 文化移動論 / 国際研究者交流(イタリア) |
Research Abstract |
研究では、博物館再編政策が、植民地政策とリンクしつつ実施されてきたことが確認できた。それは、植民地政策と関わることになった植物園・博物館、博物学研究および標本について、今日的役割の可能性を確認することにもつながっている。 テーラー博物館(オランダ)は、島をめぐり植民地政策が作り上げた遺産、ミュージアムが文化に果たす役割を考察する上で、特筆に値する。社会進化論に代表される19世紀人種観を反映した展示についても原型をとどめる常設展部分と組み合わせて、植民地統治先の島に関して、奴隷制に代表される導入制度と現代の社会問題の接点など、特別展を通じて視覚的に提示する場として利用されている。19世紀フランス博物学展示様式が、他地域の資産家に与えた影響について、見事な蒐集・展示を通して計ることができる点で、興味深い。 ケ・ブランリー博物館で開催された展覧会「アートは言葉である」(2013年10月-2014年1月)では、開催が、現在の対島嶼政策と組み合わされメディアの役割を担う点がわかった。脱-植民地政策とリンクする問題提起の視点から準備された展覧会は過去にも存在する("De Jade et de Nacre"1989-90年実施)が、本展覧会では、オブジェは、コレクション価値評価と、併せて社会規範が伺えるコロニアル遺産の側面への配慮から選ばれている。ニューカレドニア反仏蜂起のリーダーであり、標本として自然史博物館に保存されてきた「アタイの頭」(2014年9月返還予定)をテーマのひとつに取り上げ、標本視した時代と現在のコントラストに説明を試みる点は、独自である。フランス島嶼脱-植民地問題の20年来の課題である非ヨーロッパ系住民の文化的アイデンティティを説明する展示とともに「エキゾチズム」の理解を促し、「文化」理解変遷の背景のひとつとして、1980年代以来の政策よる働きかけの意義が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第一に、仏領アンティル島側での下調べに関して、研究を推進する上で、作業進行具合にばらつきが生じている。 理由として挙げられるのは、コーディネートをお願いしていた方に関して、2月末の訪問直前にドクターストップがかかったこと。到着してから知らされたとはいえ、自宅療養を優先する必要があったことから、現地で予定していた細かい擦り合わせなど見合わせた。 研究全体としては、重大な遅れが生じているとは考えられないが、比較調査の実施について、変更を必要とする可能性がある。 また、植物の研究機関について、聞き取り調査を2年度目に重点的に行う方向となったことも、若干影響している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、関心を寄せているのは、次の3点に関する調査・研究である: - 過去の帝都における植物園および博物館政策 - 植物標本の潜在的可能性についての聞き取り、資料調査 - 地中海周辺地域の各植物研究機関の間での文化移動に関する聞き取り調査 - 島側での比較聞き取り調査
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の推進方策に挙げた通り、一年度目の調査で、概ね、関心を寄せてきた方向について、なお調査を続ける余地があることがわかった。従って、過去の帝都における植物園および博物館政策、植物標本の潜在的可能性についての聞き取り、資料調査、地中海周辺地域の各種植物研究機関の間、及び島との関わりにおける文化移動に関する調査を継続するため、次年度使用額が生じることになる。 一点、懸念されるのは、島側に関する使用部分についてである。一年度目に実施した島の視察を通じて、植民地政策及び標本導入と関わりがある文化遺産について、20年来、産業遺産の形で整備されてきているにも関わらず、再評価の糸口が広く共有されるのに時間がかかっていることがわかった(アンティル)。現在、標本導入との関わりから島が抱える文化遺産に関する問題について、今後の2年度以内に成果をあげる研究の実施が可能か、調査を続けつつも慎重に見極めたい。 植物園訪問(イギリス、イタリア、フランス、インド洋島嶼、アンティル島)を順次実施しつつ、現地での聞き取り(ニューカレドニアでのミュージアム展示に関する聞き取り調査)を重ねるとともに、並行して、文書調査(フランス)を実施する。 また、2年度目は、研究協力者による資料調査を実施、できれば、国内島嶼調査(奄美列島)の実施を視野に入れ、調整を計りたい。
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