2014 Fiscal Year Research-status Report
植民地制度と標本:博物誌研究に占める島と植物園・博物館の役割の検討から
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25380196
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
尾立 要子 神戸大学, 学内共同利用施設等, 講師 (30401433)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
小さい島は、安全保障と関連づけられる場合をのぞき、見失われがちである。植民地化など負荷の高い歴史・記憶に彩られ、問題解決が後回しとなり、国民生活におけるリスクが高まってからでは適切な対応機会がしばしば喪失となる。現代の対島嶼行政は、来島者の往来活性化を目指して観光開発を国境周辺行政と位置づけ、リスクに注目して重点的にきめ細やかな政策を実施する方向へと転じる意義は大きい。その転機を確認するにあたって、サンプルが果たす役割が明らかになったことが2年目の成果である。 フランスと海外島嶼の例は、20世紀半ばに政策移民を実施したことから近代化が遅れた。研究代表者は、サトウキビ島に伝わる歌を取り上げ奴隷制の記憶など評価について聞き取り調査を行ったが、成果のひとつには当事者集団の転機に関するリアクションが得られ、文化遺産としての標本活用の意義を確認できたことである(学会報告覧参照)。 琉球新報社が沖縄産業計画と主催し裏添市美術館(沖縄県)で開催された「琉球・幕末・明治維新 沖縄特別展」では、琉球国が米国、フランス、オランダと結んだ琉米修好条約、琉仏条約、琉蘭条約の、日本国外務省外交史料館が保管する3条約原本が展示された。紙面で住民のリアクションが紹介されただけでなく、3条約との関わりでは、締結国双方にあった原本のうち、米国およびフランス側の原本が会期中に確認され、米日関係を軸に琉球-日本関係が、いびつで非対称な決定の中心である東京と遠く離れた島との関係へと変容した現代史を考える上で、視点を交差させる場を提供した。準備を連載として取り上げた新聞紙面コラム「道標求めて」が『沖縄の自己決定権─歴史的根拠と近未来展望』(仮)と題し出版されるとのこと。アクターの行為の背景が提示され、情報が補われることで、エネルギー消耗と対立を避けながら負荷の高い歴史再訪を促すサンプルの独自性の広がりが見出される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
資料調査を前提としていた標本の閲覧など、機関から合意を得るのに時間がかかっているため。
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Strategy for Future Research Activity |
植物園・植物研究は企業活動と歴史的に関係が深いが、高知県立牧野植物園で実施された企画展「天然ゴムの出来るまで」は、植物研究、標本の役割をストレートに打ち出し、その企業活動と重ねて提示した。開発・原料採集先の人々の暮らしをグローバル化に巻き込んできた企業活動の影響は、80年代以来関心を集めてきたが、企画展ではブリジストン研究所長の報告を通じて、企業の社会に対する取り組み、課題を企業側の視点から紹介した。 また、日本医学学会総会2015の実施に合わせて開催された企画「医学史展」は、5世紀来の標本化対象島であった列島の内側から、古来、植物研究とともに発展した医学史を、医師の道具、医学書、日本医学校の歩み、助産の歴史を間にiSP細胞まで、展示した。しかも関西で発展したという独自の視点から日本の医学が作り上げてきた社会との関わりを説明するある機会となっていた。 企業活動の開始期は、社会全体としても無視できない重要性を持っている。また島をめぐる取り扱いは、しばしば企業活動と関係してきた。2015年度は、島に視点をずらした聞き取り調査と併せてそうした広がりを持たせた資料調査など実施する。島側のイニシアティブについても明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
前倒し支払い請求を申請時には、カリブ諸島での調査を2015年春に前提していた。結論から言って、変更が重なったことで次年度使用額が生じた。 当所は、春のカリブ調査、これに先だって1月にパリ調査を実施し全体としてすすめる予定であったが、調査に赴いた2015年1月のパリでテロ事件が発生し、行動範囲を小さくしかつ慎重な対応に切り替える必要が生じた。春休みのまとまった作業については、ヨーロッパ内での移動に限った上、さらに変更が必要となった。 春の調査では、ウィーンでの聞き取り作業を予定していたが、コーディネーターの日程面での合意は取り付けていたにも関わらず、出発後に、現地の研究機関・資料センターなどいずれの専門スタッフもオーストリア慣習からイースター休みの形で3月20日あたりから不在となり連絡不可能との連絡を受け、作業先から外す判断を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
カリブ調査については、7月に、ヨーロッパでの調査とともに実施する方向で調整する。
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