2014 Fiscal Year Research-status Report
再考:米国の移民法―人・物の移動規制と国家の変容―
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25380205
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
加藤 洋子 日本大学, 国際関係学部, 教授 (00182345)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 人の移動 / アメリカ / 輸出規制 / 国際関係 / 情報技術革命 / 移民 / 国家、国境、境界 / 国家の変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度には「境界と国家―アメリカの場合―」と題する報告を行った(「ボーダーから考えるアメリカ」北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター・境界研究ユニット「ボーダースタディーズと国際関係」第二回北米研究部会報告、平成26年10月11日、於中央大学駿河台記念館)。国家による人・物の移動規制を辿るには、国家を構成する要素をさまざまな観点から検討する必要があるが、上記報告で筆者は、領土の観点からアメリカの国家としての変遷と人・物の移動規制との関連を再検討した。 アメリカは、一般に北米大陸にある国とみなされることが多いが、太平洋に島々を領有する太平洋国家でもある。また、行政機構の面では、アメリカは連邦政府だけからなるのではない。連邦政府による移民規制については研究がなされているが、州政府による規制の分析は手薄であり、アメリカ領の島々と人・物の移動規制についての研究は、ハワイを除くと、さらに手薄である。アメリカの領土や国家基盤について語る際には、陸の国境だけでなく、海における国境・境界の変遷についても分析する必要がある。上記報告では、陸と海(とくに太平洋)における国境・境界の変遷と国際関係の変化について検討した。 海における国境・境界の変遷は、人・物の移動規制およびアメリカの移民法と密接に関連している。昨夏(平成26年8月)に、ワシントンDCにある国立公文書館および議会図書館でリサーチを行った際には、海とくに太平洋でのアメリカ人の移動に関する第一次・第二次文献に重点をおいて調査した。 その他、アメリカにおける人の移動とその規制の最近の動向についても分析を進めている。とくにエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコなどからの(親に伴われない)子供の不法入国急増などの問題を追究した。アメリカの最近の移民法・移民政策の動向については、今後、論文等で発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度末までには、アメリカの移民法と国家基盤との関係について多くの知見が得られている。そのなかには、国家としてのアメリカを構成する領土と人のあり方が、想定されている以上に重層的かつ多面的である、という点がある。英領植民地時代の遺産は、州権という形で今日に至るアメリカの底流を形成し、人・物の移動規制にも大きな影響を及ぼしている。アリゾナ州の移民法(S.B.1070 [2010年])を巡る論争に見られるように、人の移動規制問題からは、州権の根強さが垣間見られる。これは、英領植民地時代における統治形態の特殊性を抜きにしては語れず、「国家の変容」が進む今日以降の世界においても、州権は注目すべき分析対象になっている。 また、アメリカの国家基盤は、市民で構成されるだけでない。連邦憲法は、下院議員数の配分は各州の人口に比例すると規定し、10年毎に人口統計をとることを求めた。1790年から10年毎に行われているセンサスでは、人口には市民でない者も含まれ、センサスを介して市民でない者もアメリカの代議制民主主義に組み込まれている。これは、人口統計史上およびアメリカ史上において画期的なものだったし、アメリカの国家を構成する市民と人口との複雑な関係が見出される。 さらに領土に言及すれば、これまでの研究は、アメリカの50州に関わるものは多くても、アメリカの国家基盤に占める海における領土の位置は、アメリカの領土全体のなかで包括的にはとらえられていない。アメリカの移民法では、船員の移動規制は一つのテーマになってきたし、太平洋などのアメリカ領の島々からの人や物の流入も問題になってきた。カリブ海や太平洋のアメリカ領の島々での統治形態、そしてそこでの人・物の移動規制は、アメリカの国家基盤全体のなかに組み込んで検討されるべきだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究蓄積に基づいて研究を進める。最近のアメリカにおける人・物の移動規制の動向を分析することは、引き続き研究課題になっている。アメリカで大きな問題となった親に伴われない子供の不法入国の問題は、筆者が関心を寄せている問題の一つである。2009年度には、メキシコ国境を越える子供の不法流入の85%がメキシコからの流入であったのに対し、2014年度の 1~8月には25%にまで低下している。拙著(『人の移動のアメリカ史』彩流社、2014年3月)でも言及したように、メキシコ経済の発展などから、メキシコからアメリカへの人の流入は歴史的転換点にたっているのかもしれず、子供の流入にも同じことが言えるのかもしれない。アメリカの国家基盤のあり方について、大きな変化が生じてきている、とみてもよいのかもしれない。 最近のアメリカの人・物の移動規制の問題は、「国家の変容」という問題と結びついているが、この問題は、なにがアメリカの国家基盤となっているのかという分析と切り離して語ることはできない。上記で記述したように、太平洋におけるアメリカの活動と領土展開、そしてこれらの領土に対するアメリカ政府による人・物の移動規制を、アメリカの国家基盤のなかに包括的に位置づけることも研究課題の一つになっている。さらに、21世紀のこれからを展望した新しい人・物の移動規制の分野も研究対象として検討している。
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Causes of Carryover |
為替変動があり、洋書の購入金額で当初計画とのずれが少し生じた。また、研究支援者を雇用したかったが、研究室内での勤務が求められているため、適切な人材を見つけることができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額として残った額は、次年度での図書購入に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)