2014 Fiscal Year Research-status Report
韓国の初期社会・生活行政に関する一次資料の収集と検証
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25380293
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
金 早雪 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (20186307)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 社会保障制度構築 / 韓国 / 救護行政 / 近代的国家建設 / 社会・生活政策 / 社会開発と経済開発 / 社会保障制度審議委員会(社保審) |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度発表した資料検証3論稿に続けて、平成26年度は、下記3本の論稿を『信州大学経済学論集』第65号に発表し、全体計画の8割近くまで進行した。http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/economics/research/journal/index.html これらによって初期の政策構想と実態に関するブラックボックスを相当埋めるとともに、研究方法として、戦後の国家建設と経済開発・社会政策との関連を政治経済学的視点から論じた。 ①「韓国の初期社会・生活行政をめぐる資料検証(その4):崔千松と社会保障審議委員会研究室の活動軌跡」(pp.141-192)~1960-70年代にかけて社会保障制度構築を提言し続けた、保健社会部(省)内の「社会保障審議委員会・研究室」という異色の集団が、朴正煕軍事政権のもとでなぜ誕生し存続したのか、現存資料から正確に検証した。 ②「1960年代前半の韓国における『反共国家』建設と生活政策:『救護行政』改革とその意義」(pp.57-99)~韓国の近代的な社会保障(とくに公的扶助)は、「救護行政」の改革に始まる。すなわち経済開発始動に向けて「濫救」を正すため、非労働能力者のみを対象とするなどの原則が立てられたが、百万人を超える労働能力のある「零細民」を放置しえないジレンマのもとに、法令や原則は形骸化をきたすしかなかった。 ③「韓国・朴正煕政権時代の経済成長戦略と社会保障構想:社会保障審議委員会研究室の挑戦」(pp.101-140)~「社会保障審議委員会・研究室」が、政府内部で実際にどのような政策提言を行ったのか、とくに経済離陸期の1960年代末からの「社会開発」構想として、経済優先政策に挑戦し、最低生計費を推計するなどの功績を残すも、維新独裁体制がその実現をはばんだ。 平成27年度は、新たに2論稿を加えて単著を刊行する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定としていた資料検証(4)を刊行したほか、最終年度に予定していた論稿を、2つに分けて発表し終えた(「1960年代前半の韓国における『反共国家』建設と生活政策」及び「韓国・朴正煕政権時代の経済成長戦略と社会保障構想」:いずれも『信州大学経済学論集』第65号所収、平成26年3月)。 これらのほか、関連して、ジェトロ・アジア経済研究所での共同研究の成果論文(宇佐見耕一・牧野久美子編『新興諸国の現金給付政策』2015年3月、pp.167-195)や、近年の韓国の福祉動向についての論考(『社会福祉年鑑2014』旬報社、2014年12月、pp.197-226)を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、1980年代以降における経済・社会の成熟と政治の民主化とともに、「救護行政」から近代的な生活保護行政への転換が、市民・福祉改革勢力主導により急速に推進される状況についての論考をまとめる。 具体的には、①1980年代における生活ニーズの変容と外国援助の撤退によって、もはや従来の「救護行政」はその歴史的使命を終えて、生活政策としてのさまざまな矛盾を呈し、そうした新たなニーズに対応する担い手として新たな市民・福祉活動が活発化したことを論証する。②盧泰愚-金泳三-金大中-盧武鉉の歴代政権のもとで、古い「救護行政」の枠を破り、新たな生活ニーズに沿った近代的福祉体系をいかにして構築しえたのかを(再)整理するとともに、こうした韓国の福祉改革が世界史上における意義と、政治・経済・社会に規定される生活政策の政治経済学的な研究方法のあり方についても、論じる。 一連の研究成果は、新幹社(東京)から今秋、単行本として刊行することが内定しており(4月に入稿ずみ)、韓国で韓国語版の出版の可能性を関係者に相談する予定である。 また、これらの成果について、政治経済学・経済史学会(福島大学、10月)で発表するほか、日本国際経済学会全国大会(11月)などにも発表機会を申請する。
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Causes of Carryover |
当初計画していた海外での学会発表を見送ったため、旅費と人件費・謝金が当初予算より少額にとどまったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、平成27年度請求額とあわせて、主に学会発表のための旅費や資料整理等の人件費として使用する。すなわち、今年度9月(韓国)及び10月~11月(日本)に、複数の学会で研究発表を行うよう申請・調整中で、さらに5~7月に資料整理のためのアルバイト雇用を予定している。
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Research Products
(8 results)