2014 Fiscal Year Research-status Report
地域の住民意思形成・合意形成過程における地域メディアの役割
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25380686
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
飯島 伸彦 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (20259310)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 構造災 / 組織された無責任 / 批判的言説分析 / リスク社会 / 第2の近代 / 討議民主主義 / 地域公共圏 / 応答性 |
Outline of Annual Research Achievements |
分析枠組み・アプローチの整備 2014年度の研究は、まず2013年度の研究において明らかになった分析アプローチ・方法上の課題を明確化することに当てられた。批判的言説分析の方法を、第2の近代における高度に発達した科学技術イシュー(原子力発電所の安全性、建設、稼働・再稼働の是非)にふさわしい分析枠組みに組みなおすこと、再構築することを目指した。第1に、科学技術のリスクについては従来のメディアの客観性・公平・中立性等々の規範とはまた異なる側面が求められること、とりわけ「組織された無責任」(ベック)、「構造災」(松本三和夫)などにいかに対処するかが課題であること、第2に、原発のようなイシュ―に対しては地域社会特有の利害の構造の歴史的経緯と現在の構図が踏まえられたうえでの分析がなされるべきこと、第3に討議デモクラシーにおいて求められる条件 ①正確で質の高い情報の提供、②異なる立場の意見の公平な提供、③情報の網羅性・応答性(ある問題の一面に基づいてなされた主張が、ほかの一面に基づく主張によって応答されている程度)、などの点がポイントであることが明確化された。 分析の遂行 そのうえで、2011年以降2014年に至るまでの中部地域の原発立地自治体の地方紙(静岡新聞、福井新聞、新潟日報)、地域ブロック紙(中日新聞)、全国紙(朝日新聞、読売新聞)などのメディア言説が、どのような役割をは果たしているかの分析を行った。浮かび上がった知見は、第1に、地域メディアといっても三層構造のそれぞれにおいて地域利害の配慮の仕方がそれぞれのメディア文化によって異なること、第2に公平性などのメディア規範、メディアの報道姿勢の点で伝えるべきとされる内容が異なること、第3に、地域メディアの地域社会の利害構造に対しての特有の配慮が、討議デモクラシーという点から不十分なものになっているという構図などである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、原発立地自治体の地域メディアの言説分析のための方法の整備 リスク社会論、科学技術社会論、討議民主主義論などの分析枠組みを批判的言説分析と結び付け、枠組として統合するという課題についてはほぼ達成されている。分析課題の焦点は、高度に専門性を有する科学技術問題に対するメディアが果たすべき役割の明確化と、応答性などの討議民主主義論から要請される課題にどうメディアが答えているか、である。第2に、原発立地自治体・地域に特有の地域社会の利害構造、意識構造の解明とそれぞれの地域における多様性の地域社会学的な解明については、静岡、新潟、福井それぞれについては一定程度進めつつある。原発立地自治体とその周辺自治体との関係、および地域産業と原発レジームとの結びつきなどが焦点である。第3に、高度な科学技術イシューについて、地域の「住民合意」が討議民主主義の面から形成されているかどうかについての分析の見通しについて、言説分析のレベルでは明らかになりつつある。それぞれの地域メディアが「中立性」「公正性」などの点で独自のメディア文化を形成してきており、それらを地域メディアの重層的な構造(地方紙、地域ブロック紙、全国紙のそれぞれの役割)を明確化しつつ、分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、各地域の原発の稼働、再稼働をめぐる状況はこの3年間の間においてもめまぐるしく変化しつつあり、それぞれの地域における状況についても、廃炉決定、再稼働などをめぐってバリエーションの変化を生んでいる。紙面の内容分析、批判的言説分析については、この間の継時的な変化、メディア言説の推移の分析について、それぞれ一定の期間については実施してきているが、それぞれについて、さらに分析を進めていく必要がある。第2に、地方紙、地域ブロック紙、全国紙それぞれについて、地域住民に対して情報を提供する役割に微妙な差があるという点が分析から浮かび上がってきているが、その点についての比較分析的な考察を行うことが課題となってきている。また、第3に、各地方紙の送り手に対するヒアリング調査が不十分であり、ヒアリング調査と言説分析を相互に照らし合わせて、内容分析・言説分析から浮かび上がる報道姿勢について、送り手がどのようなスタンスをとってきているか、ヒアリング調査による検証作業を行う必要がある。
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Causes of Carryover |
当初2014年度に購入する予定だった資料、書籍類(和書、洋書)、について、2015年度以降にまわしたため。また、ヒアリング調査、出張などの回数が予定よりも少ない回数であり、次年度以降にまわしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
内容分析・紙面分析のための基本的な書籍、資料を系統的に収集する必要があるため、今年度使用しなかったものも、次年度以降の物品費として必要。また、各対象地にヒアリング調査を行うために、旅費などの経費が必要となる。
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