2014 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ教育学におけるコンピテンス概念の史的展開と今日の教育改革での意義
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25381017
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
津田 純子 新潟大学, 教育・学生支援機構, 教授 (90345520)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 行為コンピテンス / コンピテンス開発 / 自己組織化 / チョムスキー / ペスタロッチ |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は、近年の「コンピテンス・パラダイム」の状況でコンピテンス概念がどのように捉え直されているか、研究動向を調査し、以下の点を明らかにできた。 コンピテンス概念の歴史的論述が、チョムスキーが源流とする新人文主義に遡って論じられる傾向がある。例えば、チョムスキーがW.フンボルトの言語思想にみた「コンピテンス的概念の端緒がペスタロッチの〈子どもの思考力や技術力〉に相当する」とK.コベルトはいう。また、P.クライナーは、ペスタロッチがいう「頭・心・手」の領域をコンピテンス志向の学習目標と関連づけるなど。 日本では知られていない、M. ウェーバーのコンピテンス概念は1920年代に社会学的文脈で導入された。学習過程を視野に入れたコンピテンス概念は、さらに「すべての人間に備わる学習過程における自己組織化(selbstorganisiert)の能力」と捉えなおされ、1980年代には、教育学分野でこの概念が活発に論議され、コミュニケーション学や教育学、教授学、成人学習論、発達心理学、認知心理学、学習心理学などの展開に大きな影響を与えてきた。H.エブリは、これを包括的な教育学的概念へ発展させた。 ドイツ教育審議会の構造計画(1974年)において、コンピテンスは当初、バーダー案に基づいた「行為コンピテンスの次元3要素」として漠然と導入された。現在は、「教育スタンダード」下で「行為コンピテンス」を中核として展開されている。成人教育学・職業教育学分野では「インフレ気味のコンピテンス」に批判があり、キー資格ではなく「コンピテンス開発」に関する論議が盛んである。大学では、ボローニャ・プロセスのもとで、「自己組織能力とメタ認知面への要請も考慮」して学問的行為コンピテンス志向の学習・教育改革が進められている。コンピテンス志向の教育や評価の面でドイツは遅れが指摘される(HRK nexus 2012)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究はすでに昨年前倒しをしたため、今回は初年度の研究計画を中心に進めた。当該研究課題以外での調査研究(ドイツにおける大学教育研究奨励策の動向に関する)の成果から少なからぬヒントや発見があり、これをもとに研究はより順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、マクレランドのコンピテンスをめぐる動向や、F.E.ヴァイネルトのコンピテンス概念を調査する。さらにコンピテンスの定義がドイツ大学教授学関係者の間は「自己調整力」「自己組織化力」と理解されているのはなぜか、このような共通理解のもとで、日本では喫緊の課題となっている汎用的能力の評価法と対照しながら、ドイツではどのような評価法が編み出されてきているか、明らかにしたい。 今年度前半は文献調査を十分に行った上で、後半にドイツの研究者に面談調査をすることで研究を進める。
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Causes of Carryover |
これまでの研究成果をもとに今年度のドイツ面談調査を計画していたが、多面的に調査研究を進めるにつれ、当初予定していた面談相手について検討し直す必要が生じ、ドイツ出張を次年度に延期したため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たに発見した重要な先行研究者を含めて、面談者リストを次年度前半に作成し直して面談日程を照会し、後半に面談調査をする。
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Research Products
(3 results)