2014 Fiscal Year Research-status Report
レゾルベントの漸近解析による時間依存型境界値逆問題の展開
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25400170
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
川下 美潮 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80214633)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | レゾルベント / 境界値逆問題 / 囲い込み法 / 漸近展開 / ポテンシャル論 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱方程式の境界値逆問題についての解析では「指示関数」と呼ばれる関数を導入するのが重要である。この指示関数の漸近挙動の解析から空洞や介在物の情報を引き出すことがこの問題の本質的な所で、ここにレゾルベントの漸近挙動が必要になると考えられている。具体的には、レゾルベントの漸近挙動を調べることを通じて、どのようにして内部にある空洞や介在物の情報を引き出せるかについて調べるのが目標である。 当該年度では昨年度の成果を踏まえ、指示関数を三次元の全領域におけるレゾルベントの方程式の基本解を使って導入する「一回観測(II)」と呼ばれる方法についての考察を引き続き行った。本計画で予定している考察の特徴は主にパラメータつきの楕円型境界値問題の解をポテンシャル論を用いて表示し、その形を最大限利用することにある。この手法により、当該年度の計画として掲げていた「空洞に対する一回観測(II)についてのより詳しい解析の実行」が可能となり、空洞が狭い意味で凸の場合は、ほぼ満足のいく解析ができた。 昨年度はいわゆる非退化条件を用いて漸近挙動を引き出せるような状況下で議論を行ったが、漸近挙動の下からの評価を求めるだけなら、そのような仮定がなくても解析可能である。この手法をVaradhan(1967)に始まる古典的なレゾルベントの漸近挙動の問題に適応し、内側の境界からデータが出ない場合のレゾルベントの漸近挙動についての結果も得るなど、この境界値逆問題に関連した問題についても考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度に予想していた研究目標はほぼ達成されたと考えている。これまでのこの方面の研究によれば、状況設定は異なるが、どの場合も「最初に内部の境界にぶつかる点までの最短の長さ」を見ていると解釈できることが徐々にわかって来ている。昨年度の成果をもとに、空洞に対する一回観測(II)の場合も精査した結果、同様のことが確認された。この場合の「最短の長さ」とは、基本解の源泉となる点(領域外部にあり、固定されている)と内部にある空洞の境界上の点と外部の境界上の点を結ぶ折れ線の長さを考え、これらの境界上の点を全て動かしたときの折れ線の長さの最小値のことである。この長さが分ることから、内部の空洞がどこにあるかについての情報をある程度得ることができる。これらの考察を論文にまとめ、出版できた。そこではLaplaceの方法を用いる際に、非退化であるという条件が必要になるので、そのようになるための条件を境界の曲率に関係した上で表し、この条件を満たすことを前提として話をすすめていた。しかし、完全な漸近挙動を求めることは諦め、「最短の距離」を求めることに限定すれば、非退化条件がなくても解析可能である。この手法をVaradhan(1967)に始まる古典的なレゾルベントの漸近挙動の問題に適応し、内側の境界ではNeumann境界条件による単なる「反射」だけの効果しかないときにレゾルベントの漸近挙動についての結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向は、「空洞に対する一回観測(II)についてのより詳しい解析の実行」を引き続き継続することにある。現在、昨年度の推進方策に掲げた「狭い意味で凸な空洞が複数空いている場合」の考察を行い、狭い意味で凸な空洞のときとほぼ同様の結果になることが分かりつつある(ただし、最短の長さを与える折れ線が線分にならないという仮定を置く必要がある)。これについては現在取りまとめ中である。また、「その他の境界値逆問題の設定に対するレゾルベントによる解析の有効性ついての考察」として、当初研究計画に掲げた問題の中に二層問題における逆問題があるが、これについての考察を本格的に行うことを考えている。レゾルベントの構成はほぼ終わっているので、漸近挙動を調べるという問題について考えるのが今後の課題である。さらに、昨年度も掲げた長期的な課題として、「空洞と介在物が入り混じった場合の境界値逆問題についての考察」がある。これについてはまだ手付かずではあるが、今後考えるべき問題であると認識している。
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Causes of Carryover |
研究打ち合わせ出張を行う必要が1回なくなったことと、体調不良により計画していた出張を1件取り止めたことにが大きな理由です。当該年度に出張計画を組み使用することも可能でしたが、それより次年度の計画に組み入れ、使用した方が効果的な研究活動が行えると考え、残高の143,959円を次年度の使用に回すことにしました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今回は本研究課題最終年度ですので、成果発表のための出張を行なおうと思います。そのための旅費に充てる予定です。
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