2014 Fiscal Year Research-status Report
地球流体渦のクラスタリングと負温度性:準地衡風点渦系の統計力学
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25400462
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
宮嵜 武 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (50142097)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 直也 東京電機大学, 工学部, 准教授 (40313423)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 地球流体渦 / 統計力学 / 最大エントロピー理論 / 点渦系 / 大規模数値計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
準地衡風点渦系の統計力学を数値計算と最大エントロピー理論によって調べた。周期境界条件下(2π×2π×2π)における準地衡風点渦系の大規模数値計算を、分子動力学専用計算機(GRAPE9)を用いて実行し、同符号点渦のクラスタリングと2次元化の過程を捉えた。平成26年度は、点渦数を32000まで増加させて、平衡状態に至る過渡的な過程を、DBSCAN法に基づくクラスター解析手法によって定量的に解析した。その結果、クラスター数は時間に反比例して減少することが分かった。この減衰則は、従来の準地衡風方程式の直接数値計算(散逸を伴う)で知られている減衰率(-1.25乗)より有意に小さい。点渦系では、主として高さの異なるクラスターの一本化によってクラスター数が減少し、各クラスターのアスペクト比は時間とともに単調に増加して、2次元的な平衡状態に近づくことが分かった。これは、散逸系で観察されるアスペクト比を一定に保つ渦領域の合体とは全く異なるメカニズムである。 一方、最大エントロピー理論に基づいて導出された平均場方程式の解(2次元解と3次元解)を広範囲のエネルギー領域で求め、その安定性を調べた。その結果、すべてのエネルギー領域で2次元sn-sn dipole解のエントロピーが最も大きく、また2次元sn-sn dipole解は安定であることを示した。これらの理論的な結果は、点渦系の数値計算で得られる平衡状態が2次元sn-sn dipole解であることと整合する。また、周期境界の水平アスペクト比を変えて、平均場方程式の解を求めた結果、低エネルギー領域では2次元zonal流が最も高エントロピー状態となることが示された。この結果は、点渦系の平衡状態に境界形状が大きな影響を持つ可能性を示唆しており、より詳細な検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度においては、分子動力学専用計算機の能力が不十分で、統計的に信頼できる点渦系の時間発展を捉えることができなかったが、平成26年度にGRAPE9のプロセッサーを追加・増強することによって、クラスタリングの時間発展を定量的に捉えることが可能となった。 理論的には、平均場方程式の反復解法を改良して、最大エントロピー状態を広範なエネルギー領域で精度高く求めることができるようになった。また、様々なアスペクト比の周期領域で理論解を求めることができ、エネルギー値によって最大エントロピー解の分枝が異なることも判明した。 スペクトル法の基づく準地衡風乱流数値計算(散逸系)を実行するコードの並列化を完成し、512×512×512の計算を東北大学流体科学研究所との共同研究のもとで実行した。計算結果の可視化から渦領域の自発的な形成とその後の合体過程が観察された。さらに大規模な計算を行い、過渡的合体現象の統計的な性質を定量的に解析する準備は整った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、これまで得られた点渦系についての知見と、散逸を伴う準地衡風方程式の直接数値計算結果(減衰乱流)を比較して、両乱流場の統計的性質に差をもたらすメカニズムを解明する予定である。まず、準地衡風方程式の大規模直接数値計算(1024×1024×1024規模)のデータから、渦領域を抽出してセンサス(渦に関する統計量の調査)を実行する。一方、点渦系については、種々のエネルギー領域で情報エントロピーの増加過程を定量的に評価して、最大エントロピー生成理論の予測と比較する。また、渦領域モデルに基づく最大エントロピー理論を構築して、点渦系の統計力学と渦領域系の統計力学との差を明確にする。これらの知見を総括し、地球流体渦現象の統計力学の特徴を整理して、地球流体(大気海洋)乱流モデルの開発に向けての指針を与える。
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Causes of Carryover |
今年度参加の国際会議に招待されたために、旅費が不要となり、一部を「その他」で使ったものの残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に旅費として使う予定である。
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Research Products
(7 results)