2015 Fiscal Year Research-status Report
繊維表面に形成させた高分子鎖の柔軟な立体構造を利用するSr-90分析材料の開発
Project/Area Number |
25420914
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
浅井 志保 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (10370339)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 大輔 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 安全研究・防災支援部門 安全研究センター, 主査 (80535477)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ストロンチウム / グラフト重合 / 繊維 / 高分子鎖 / クラウンエーテル |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原子力発電所の事故を受け、喫緊の課題となっている放射性廃棄物の処理処分を進めるには、放射性核種の分析が不可欠である。しかしながら、現行法では煩雑な分析前処理操作が必要であることから、被ばく低減や汚染対策の観点から高放射性試料の分析には不適切である。本研究では、クラウンエーテル(18-crown-6、以下18C6)誘導体によるSrイオンの分離・濃縮に基づいた新規な分析用固相抽出材料を作製しSr-90分析の迅速化を目指す。固相抽出材料の作製法は、高分子表面の改質法の1つであるグラフト重合法をベースとし、繊維表面に疎水性高分子鎖を密に配置することによって形成される疎水性界面に18C6誘導体を担持する。今年度は、本研究で作製する吸着体の特徴である繊維形状を生かした新しい測定方法の提案を目指し、レーザーアブレーション(LA)-ICP-MSへの適用性の検討を開始した。LAは、ICP-MSの試料導入部に接続する固体試料導入装置であり、固体試料の表面を微粒子化して検出部まで輸送することで、溶液化処理などの前処理なしで固体中の特定成分を質量分析できる方法である。繊維は細長い形状であるため、繊維の長軸方向に沿ってアブレーション(LA:Nd-YAG 213、周波数:20 Hz、スポット径:30 μm、スキャンスピード:5 μm/sec)すると、Srのシグナルを長時間効率よく検出できた。さらに、アブレーションによって繊維構造が破壊されることなく、十分な強度のシグナルが安定して得られた。したがって、従来材料とは異なり、繊維に濃縮したSrを溶出させる必要がない新しい分析法提案できる見込みが得られた。また、派生研究として、H26年度、本研究と類似の調製法で作製したグラフト重合法に基づく分離材料に関する性能評価結果をまとめて論文とし、Analytical Chemistry誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までに検討した条件で作製したDC18C6担持繊維は、(1) Sr吸着容量が市販材料に比べて低い、(2)繊維が酸性溶液に弱い、といった欠点があった。これを克服するため、今年度は、DC18C6が最も効率よくSrと結合する条件である“8 M 硝酸溶液”での吸着を実現する繊維の作製に取り組んだ。まず、耐酸性を強めるため、出発物質となる基材繊維の材質を、ナイロンからポリエチレンに変更し、これに伴いグラフト重合条件から見直すことになった。その結果、8 M 硝酸中でも繊維の変形・変質がなくなり、Sr吸着性能は大幅に向上した。しかしながら、吸着体作製の初期条件から全てを変更したために、当初の予定よりは遅れる結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、基材繊維の種類を変更するなど作製方法を見直したため、今年度は、まず、ポリエチレン繊維のグラフト重合条件やSr吸着条件(吸着時間、吸着体と吸着液の体積比など)の最適化をおこなう。つぎに、Sr-90のベータ線計測およびm/z 90の質量分析の際に妨害となる元素や化学種について、それぞれの測定手法の特徴を考慮して決定し、それらの分離除去性能を評価する。また、繊維形状を生かした新しい分析法であるLA-ICP-MSでの測定条件(レーザー照射条件、質量分析における補正法など)を決定するとともに、得られた分析結果を従来法と比較する。
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