2013 Fiscal Year Research-status Report
脂肪滴と脂肪滴結合タンパク質の生理的役割およびその疾患モデルの解析
Project/Area Number |
25440053
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
大隅 隆 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (50111787)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 脂肪滴 / ペリリピン / 心臓 / トリグリセリド / 脂肪 / 糖尿病 / リパーゼ / 肝再生 |
Research Abstract |
脂肪滴結合タンパク質ペリリピン5(Plin5)は、生理的条件下では心臓の脂肪滴をリパーゼによる攻撃から保護し、脂肪酸をトリグリセリド(TG)の形で脂肪滴に隔離することにより、過剰な脂肪酸酸化による酸化ストレスから心機能を守っている。病的条件下や心臓以外の非脂肪組織での役割には不明な点が多いため、本研究ではPlin5ノックアウト(KO)マウスを用い、それらの点に関して解析を進めた。 1.薬物投与によって野生型(WT)およびPlin5-KOマウスに1型糖尿病を誘発し、心臓の表現型を調べたところ、WTではTGの過剰蓄積と心機能低下が見られたが、Plin5-KOマウスでは異常がなかった。この時、WTの心臓ではジグリセリドなどの脂質中間体の増加、プロテインキナーゼC(PKC)とNADPHオキシダーゼ(NOX)の活性化、および活性酸素種(ROS)の過剰産生が観察されたが、Plin5-KOでは正常であった。また抗酸化剤投与により、WTの異常は解消された。これらの結果から、Plin5は糖尿病時には心臓でTGと脂質中間体を増加させ、これによるPKC活性化がNOXによるROSの過剰産生を招くことが、心機能低下につながると考えられる。 2.主要なTGリパーゼATGLのKOマウスは、心臓で極度の脂肪蓄積を呈するが、WTの約70%のリパーゼ活性が残存している。一方、Plin5はATGLによる攻撃から脂肪滴を保護するが、他のリパーゼに対する作用は明らかではない。そこで両者の二重ノックアウト(DKO)マウスを調べたところ、意外なことにATGL-KOマウスよりも心臓の脂肪蓄積が増加していた。 3.肝臓の再生時には顕著な脂肪の蓄積が起き、必須のエネルギー源として利用される。肝再生におけるPlin5の役割を調べるため、WTとPlin5-KOマウスを用いて部分切除肝からの再生能を比較した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、糖尿病に伴う心機能低下(糖尿病性心筋症)へのPlin5の関与(課題1)について、平成26年度内に論文を投稿し、必要に応じて追加実験等を行ったうえで、同年度中に採択されることを目標としていた。しかし、順調に研究が進行した結果、25年度中にすでに学術誌への投稿を済ませ、査読結果に応じて追加実験を行い、26年4月に修正稿を投稿することができた。この報告書の作成時点で、再審査の結果を待っているところである。採択の可能性は十分に高いことが期待されることから、この課題に関しては計画を上回って達成できる見通しである。 ATGLとPlin5のダブルノックアウト(DKO)マウスの解析(課題2)については、当初の予想に反して、ATGLの単独KOマウスよりもDKOマウスの方が、心臓の脂肪蓄積がかえって悪化しているという結果が得られ、全く予想外の新奇な発見に結び付く可能性が生じている。この点でも、順調に成果が挙がっていると評価できる。 肝再生におけるPlin5の機能(課題3)については、ほぼ予定通りに実験を行ったが、今のところPlin5の積極的な役割を示唆する知見は得られていない。 これらの点を総合的に考えると、おおむね順調に進展していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
25年度に蓄積した実績を踏まえて、各課題について計画を推進する。 1.糖尿病性心筋症におけるPlin5の役割については、論文が出版できる見通しがついたので、再修正を求められた場合には適切に対応することにより、早期の採択を目指す。 2.ATGL/Plin5-DKOマウスの解析に関しては、これまでの結果はPlin5が新奇の役割をもつことを示唆しており、その解明が目標となる。その解析手段として、細胞レベルとin vitroの実験を進める。そのために、WT、ATGL-KO、Plin5-KO、およびDKOの各遺伝子型マウスから、胎児線維芽細胞を調整済みである。これらの細胞に、培養条件下でATGLやPlin5の遺伝子を強制発現させ、TGの蓄積度や脂肪分解活性の変化を調べる。また、ATGL-KOマウスとDKOマウスはいずれも心臓に重度の脂肪蓄積を呈するが、それらから脂肪滴を調製し、リパーゼを含むと考えられる細胞質画分と組み合わせて、in vitroで脂肪分解活性を調べる。また両方の脂肪滴のタンパク質組成の違いを明らかにする。この点についてはすでに予備実験を行っている。これらの実験により、Plin5の新たな機能を明らかにする。 3.肝再生におけるPlin5の役割については、WTとPlin5-KOマウスについて肝切除実験を行い、再生能を調べた。現在のところ、最終的な再生能には顕著な差は見られていない。しかし、Plin5の近縁タンパク質であるペリリピン2 (Plin2)のKOマウスでは、最終的な再生能には差がないが、再生の進行速度が異なることが示されている。そこで、Plin5についても再生速度を調べる実験を行う。これには多くの匹数のマウスを必要とすることから、肝切除よりも手技上の困難が少なく、処置の成功率が高いと考えられる、四塩化炭素注射による肝細胞壊死からの再生について実験を行う。
|
Research Products
(8 results)