2014 Fiscal Year Research-status Report
脂肪滴と脂肪滴結合タンパク質の生理的役割およびその疾患モデルの解析
Project/Area Number |
25440053
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
大隅 隆 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (50111787)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換(オーストリア) / 心臓 / 糖尿病 / 心筋症 / 脂肪滴 / ペリリピン / リパーゼ / 肝臓 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪滴結合タンパク質ペリリピン5(Plin5)は、生理的条件下では心臓の脂肪滴をリパーゼATGLから保護し、脂肪酸をトリグリセリド(TG)の形で脂肪滴に隔離することにより、過剰な脂肪酸酸化による酸化ストレスから心機能を保護する。本研究では病的条件下や心臓以外の非脂肪組織でのPlin5の役割を解析した。 1.薬物投与による1型糖尿病において、野生型(WT)マウスでは心臓へのTGの過剰蓄積と心機能低下が見られたが、Plin5ノックアウト(KO)マウスでは異常がなかった。その原因を生化学的に詳細に調べた結果、糖尿病時の心臓内TGの蓄積に伴って増加する脂質中間体がプロテインキナーゼCを活性化し、NADPHオキシダーゼによる活性酸素種の過剰産生を招くことが、心機能低下の原因と結論された。この成果は糖尿病性心筋症の発症機構に重要な示唆を与えるものであり、25年度末に国際誌に投稿し、26年7月に論文として掲載された。 2. ATGL以外のリパーゼに対するPlin5の作用を知るため、ATGL/Plin5二重ノックアウト(DKO)マウスの心臓の表現型を調べた。組織染色において、DKOマウス心臓では脂肪滴様の構造がATGL-KOマウスよりも増加していた。詳細な解析により、これらの構造の中には脂肪滴以外の異常な構造が含まれることがわかったが、既知の細胞内構造との異同は明らかにできなかった。一方、DKOマウスの胎児由来線維芽細胞を用いた強制発現実験により、Plin5がATGL以外のリパーゼに対しても脂肪滴保護作用を持つことが示唆された。 3.肝再生におけるPlin5の役割を調べるため、WTとPlin5-KOマウスを用いて部分肝切除および四塩化炭素による肝障害からの再生能を比較した。予備的実験の結果、どちらの肝再生モデルでも、Plin5-KOマウスの方がわずかに肝再生が速く進行する傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、糖尿病に伴う心機能低下(糖尿病性心筋症)へのPlin5の関与(課題1)について、平成26年度内に論文を投稿し、必要に応じて追加実験等を行ったうえで、同年度中の採択を予定していた。しかし、順調に研究が進行した結果、25年度中にすでに学術誌への投稿を済ませ、査読結果に応じて追加実験を行い、26年7月に論文が掲載された。この課題に関しては計画を上回って達成できたといえる。 ATGLとPlin5のダブルノックアウト(DKO)マウスの解析(課題2)については、当初の予想に反して、ATGLの単独KOマウスよりもDKOマウスの方が、心臓の脂肪蓄積がかえって悪化しているという結果が得られた。その後の詳細な解析の結果、組織観察像においてDKOマウスで脂肪滴様構造が増加しているが、実際にはその中には高い割合で脂肪滴以外の異常構造が含まれていることがわかった。これは予想外の新奇な観察結果といえるが、この細胞内構造の同定には至らなかった。 肝再生(課題3)に関しては、部分切除についても四塩化炭素の腹腔内投与についても、技術的制約から十分な結果を得るに至っていない。しかし、予備的観察により、Plin5-KOマウスの方が、WTマウスよりもわずかながら再生が速く進む傾向が見られている。 以上の状況を総合すると、全体的にはおおむね順調に進展しているものと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.糖尿病性心筋症におけるPlin5の役割については、研究を完了した。 2.ATGL/Plin5-DKOマウスの解析に関しては、DKOマウスで心臓に出現する脂肪適用の異常構造の実体を明らかにすることが重要な課題である。しかし、これまでの解析では全く手がかりが得られておらず、27年度は具体的な解決策について何らかのヒントが得られた場合、それに沿って解析を行う。 3.肝再生におけるPlin5の役割については、Plin5-KOマウスの方がWT マウスよりもわずかに肝再生が速いことを示す予備的結果を得ている。27年度は肝切除や四塩化炭素の腹腔内投与に関して手技の改善を図り、そのうえで厳密な比較解析を行う。脂肪滴の増減や細胞増殖などについての形態学的解析のほか、脂肪蓄積や脂肪滴結合タンパク質の発現、さらに細胞増殖についての生化学的解析により、実際に再生速度に違いがあるかどうかを見きわめる。 4.以上の実験とは別に、生殖腺の脂肪滴の役割についての解析を進めている。これまでに精巣の男性ホルモン産生細胞であるライディッヒ細胞における脂肪滴の増減と、この細胞に接する精細管における精細胞の分化サイクルとの間に、相関があることを示唆する結果を得ている。27年度はこの点について、幼若マウスや実験的処置により増殖中の精細胞を除去したマウスの精巣において、上記の相関性を厳密に調べる。
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Causes of Carryover |
実験計画を工夫することにより、研究内容を制限することなく、使用するマウスの匹数を予定より減らすことができたため、その飼育にかかるコストが削減された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たに生殖組織における脂肪滴の機能について研究を行う。この研究には従来からのノックアウトマウスとは異なる系統のマウスを使用するため、繁殖用のマウスや飼育器材などを新規に購入する必要がある。繰り越し分は主としてこれらの目的のために使用し、27年度交付分と合わせて新たな研究計画を遂行する。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Deficiency of a lipid droplet protein, Perilipin 5, suppresses myocardial lipid accumulation, thereby preventing type 1 diabetes-induced heart malfunction.2014
Author(s)
Kuramoto, K., Sakai, F., Yoshinori, N., Nakamura, T.Y., Wakabayashi, S., Kojidani,T., Haraguchi, T., Hirose, F., Osumi, T.
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Journal Title
Molecular and Cellular Biology
Volume: 34
Pages: 2721-2731
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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