2013 Fiscal Year Research-status Report
アミロイド病モデルマウスを使ったヒトリゾチーム変異体の線維の形成機構と毒性の解析
Project/Area Number |
25450476
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
杉元 康志 鹿児島大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10100736)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | リゾチーム / アミロイドーシス / 変異体 / 小胞体ストレス / タンパク質凝集体 / 分子シャペロン / アポトーシス / トランスジェニックマウス |
Research Abstract |
ヒトリゾチームは分子内のアミノ酸の置換により全身性アミロイドーシスを引き起こすことが知られ、タンパク構造と病気発症の機構の解明が急がれている。今回、野生型と病気を引き起こす4つの変異体のヒトリゾチーム遺伝子をマウスに導入することが出来た。野生型およびW64Rはそれぞれ第1染色体と第7染色体に挿入されていることが確認された。いずれも作製したマウスはheterogeneousであった。野生型の解析から、導入されたヒトリゾチームは肝臓、腎臓および脾臓においてタンパク質の発現を観察した。現在、残るI56T, F57IおよびD67Hについて挿入された染色体在位の決定を行っており、homogeneousマウスの作製を行っており、各臓器での遺伝子発現、タンパク発現そして変異体の蓄積による細胞毒性と病気発症の機構について追究する。 一方、ヒト胚腎293細胞を使って、リゾチーム変異体の細胞毒性を調べた。変異体は野生型に比べ、分泌はかなり減少し、細胞不溶性画分に大量に見られることが観察された。そして細胞内に凝集体を形成し、蓄積していた。この凝集体の蓄積は細胞の小胞体内であることが観察され、変異体はタンパク構造が不安定であるため小胞体内でフォールディングがうまく行かず、凝集していると結論した。小胞体内では小胞体ストレスとなり、UPRシステムが働いており、細胞防御を行っているとされた。UPRシステムではPERK系およびATP6系は変化がないが、IRE1系に顕著な変化が見られた。IRE1の下流にある活性型XBP-1の亢進しているとともに、タンパク質のフォールディングに関わる小胞体分子シャペロンGRP78/Bip が変異体タンパク質と共に凝集体となっていた。細胞はこの蓄積によりアポトーシスに向かっていると推定された。変異体の毒性は小胞体ストレスを引き起こすことによって発現すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではヒトで重篤な病態を示すリゾチーム変異体のタンパク構造と疾患発症のメカニズムを追究するものであり、それには変異体を導入したトランスジェニックマウスを使ったアプローチが最も有効であり、その作製に取りかかった。これまでヒトで病因となる主な4つの変異体(I56T, F57I, W64R, D67H)について挿入ベクターを構築し、国立循環器病研究センター荒井博士の協力の下、トランスジェニックマウスの作製に成功した。そのうち、2つについては染色体在位を決定でき、ヒトリゾチーム遺伝子を持つホモタイプのマウスを構築中である。作製したマウスからタンパク質の発現を調べているが、肝臓や腎臓等に強い発現が見られ、他の臓器についても解析中である。今後、変異体が組織内に蓄積するかどうかを検証する。 ヒトリゾチーム変異体は細胞にどのような影響を与えるのかを検証した結果、小胞体ストレスとして細胞に認識され、小胞体でうまく処理できず、小胞体に蓄積したままであるため細胞毒性を示すとされた。細胞内の凝集体は当初はアグリソームと考えていたが、小胞体であったことから研究は小胞体毒性を追究することとなり、リゾチームは小胞体・品質管理システムとストレスのモデルタンパク質として注目できる。ここで得られた結果は他の不良タンパク質が引き起こす疾患にも大きなヒントを供与できると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトリゾチームのトランスジェニックマウスを作製できたことから、本研究の主体である変異体におけるフォールディングの不調から起こるアミロイド線維の形成を生体内で明らかに出来ると思われる。26年度以降はこれらのマウスを解析することにより、導入リゾチームの組織・器官での発現と蓄積について明らかに出来ると考えられる。ヒトリゾチーム変異体は細胞内の小胞体においてフォールディングがうまく出来ず、その結果、分泌不良を起こすと今回明らかになったことから、マウスのおいても同様の小胞体ストレスによる細胞毒性であるかを検証する。生体内でリゾチーム変異体はアミロイド線維を形成しているかを観察する。 小胞体に蓄積した変異タンパク質はアミロイド線維を形成しているかを明らかにする必要がある。また、一般的には小胞体でうまくフォールディング出来なかったタンパク質はERAD系で処理され、細胞質のユビキチン・プロテオソーム系で分解処理を受けるのに対し、リゾチームのように小胞体に長く留まっているようなタンパク質は少ないことから、いくつかのこのようなタンパク質と比較し、小胞体における不良タンパク質の蓄積と病態との関係について研究を進める。
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