2014 Fiscal Year Research-status Report
両親媒性包接化合物サイクリックビスデスモシドの生物薬剤学的有用性の解析
Project/Area Number |
25460052
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Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
村上 照夫 広島国際大学, 薬学部, 教授 (20136055)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堂官 留美子 広島国際大学, 薬学部, 助教 (20435069)
小田 啓祐 広島国際大学, 薬学部, 助教 (60712594)
森 信博 広島国際大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70412351)
金子 哲夫 広島国際大学, 薬学部, 准教授 (00389107) [Withdrawn]
笠井 良次 広島国際大学, 薬学部, 教授 (10034018) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | サイクリックビスビスデスモシド / 両親媒性包接化合物 / シクロデキストリン / 溶解度改善 / 難水溶性化合物 / 包接化合物 / 生物薬剤学的応用 / 生体膜透過 |
Outline of Annual Research Achievements |
① サイクリックビスデスモシド(T-1)による難水溶性化合物の溶解度改善に関し、経口爪水虫治療薬として用いられているイトラコナゾール(IC)をモデル化合物として用い検討した。ICと40%ヒドロキシプロピルーβーシクロデキストリン(HP-β‐CD)の包接複合体の水溶液、即ちイトリゾール内服液1% (200 mgIC/40%HP-β‐CD/20 mL) が臨床に用いられている。包接化合物10%濃度において比較したところ、T-1包接複合体はHP-β‐CD包接複合体に比べ、8.6倍高い溶解度を示した。 ②IC/T-1包接複合体の溶液あるいは懸濁液を用い、ICの直腸吸収、消化管吸収、および静注投与後の組織分布に及ぼす影響についてラットを用い検討した。コントロールには、IC/HP-β‐CD包接複合体を用いた。 (直腸吸収(溶液)):ICのT-1包接複合体は、HP-β‐CD包接複合体に比べ、投与後60分まで、高いIC血漿中濃度を示した。60分後以降は、両者間に差は認められなかった。(消化管吸収(溶液、懸濁液)):経口投与後4時間のIC血漿中濃度推移を測定したところ、T-1包接複合体の溶液および懸濁液は、HP-β‐CD包接複合体に比べ、若干低い血漿中濃度を示した。(静注投与後の組織分布): 静注投与4時間の血漿中濃度と、4時間後の肺、肝、腎、皮膚の組織内濃度を比較したところ、T-1包接複合体とHP-β‐CD包接複合体間で、有意な差は認められなかった。以上、直腸投与ではIC/T-1包接複合体の方が、HP-β‐CD包接複合体に比べ、投与初期において若干高い膜透過性を示した。消化管ではHP-β‐CD包接複合体の方がT-1包接複合体に比べ高い膜透過性を示し、静注投与後の組織分布では、両包接複合体間に差は認められなかった。これらより、
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況は「やや遅れている」状況である。サイクリックビスデスモシドとは、土貝母から単離された配糖体オレアナン系トリテルペンのビスデスモシドで、糖鎖がエステル結合したことによって架橋された大環状構造を有している。本研究では、単離された配糖体のうち主にtubeimoside I (T-1)を用い検討している。T-1は、水やアルコールにとける両親媒性の性質を有しており、従来から用いられている水溶性のみの包接化合物である種々シクロデキストリン誘導体とは明らかに異なった物理的作用や生物学的作用を示すものと期待される。本検討において、添加濃度10%で比較した場合、T-1は、溶解促進作用の強いことが知られているヒドロキシプロピルーβーシクロデキストリン (HP-β‐CD)に比べても、難水溶性化合物イトラコナゾールの溶解度を8.6倍促進した。この知見に基づき、T-1複合体の生物薬剤学的応用に関する検討を進めたが、直腸投与において初期吸収速度の若干の改善が認められたが、経口投与および静注投与後の組織分布においては、HP-β‐CD包接誘導体とほぼ同等かあるいは若干低い結果となった。 サイクリックビスデスモシドはその構造の中に、疎水性部分と親水性部分を併せ持つ化合物であり、包接作用に加え、界面活性剤としても作用することが予想される。イトラコナゾールは Biopharmaceutics Classfication System (BCS)のClass Ⅱに分類される化合物であり、難水溶性ではあるが、溶解すれば、その脂溶性は高く膜透過性も良好であることが知られている。そのような薬物に対し、もしT-1の作用が包接複合体の生成ではなく、界面活性剤としての作用が主であるならば、ミセルの形成による見かけのサイズが大きくなり、脂溶性分子の膜透過性は抑制されることが予想される。経口投与の結果が、予期に反し、若干低下したのは、T-1によるミセル形成による可能性が考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記したように、両親媒性化合物であるT-1複合体の膜透過性が、予期したほど改善しないのは、その界面活性剤的な性質、即ちミセル形成によることが考えられた。これらの考察に基づき、サイクリックビスデスモシドの物理化学的性質、および生物学的性質を明らかにする目的で、脂溶性およびCMC形成能を測定しイトラコナゾール溶解度の改善はサイクリックビスデスモシドの包接作用によるものか界面活性作用によるものかについて明らかにする。さらにサイクリックビスデスモシド自身の生体膜透過性を含めて、膜移動の際、イトラコナゾール分子とT-1分子は一体となって移動するのか、あるいは個別に移動するのか、あるいはシクロデキストリンのように包接化合物は膜を透過しないのかなどについて検討し、包接作用と界面活性作用の役割を明らかにしたいと考えている。 またこれらの検討と並行し、イトラコナゾール以外の難水溶性化合物、例えばステロイド剤やジゴキシン、リドカイン、フェニトインなど、他の難水溶性化合物の溶解度や、生体膜透過性に及ぼす影響について検討を進めたいと予定している。
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Causes of Carryover |
難水溶性薬物イトラコナゾールとサイクリックビスデスモシド(T-1)複合体の生物薬剤学的応用性に関する検討において、複合体の有用性が溶解度改善能から予期したほどは、直腸吸収や消化管吸収および組織生体膜の透過など生体膜透過の改善に顕著な影響は及ぼさなかった。種々予試験において、良好な結果が得られなかったことより、本番となる実験動物の匹数や定量用試薬代の使用が当初の見積もりよりは低い値にとどまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
包接化合物(ホスト)と、包接される薬物(ゲスト)の複合体形成には、ゲスト側の化学構造や脂溶性など、その物理化学的性質が大きく関わることが知られている。次年度では、イトラコナゾールにのみこだわることなく、化学構造の異なる種々難水溶性薬物を用い、その溶解度改善について検討する。そして、良好な結果が得られた包接複合体を用い、実験動物にラットを用い、その生物薬剤学的応用性、即ち直腸吸収、消化管吸収、組織分布、および皮膚吸収等について検討を進める。また土貝母からサイクリックビスデスモシド (T-1)の抽出・単離も必要であり、これらの試薬としても繰り越し科研費を含めた、経費が必要である。
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