2013 Fiscal Year Research-status Report
スプライシングの正確性制御機構の解明とスプライス部位変異克服への応用
Project/Area Number |
25460057
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
米田 宏 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (60431318)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スプライシング / スプライソソーム / snRNP / スプリットルシフェラーゼ |
Research Abstract |
遺伝性疾患の原因遺伝子変異を分類すると、大半はアミノ酸配列の置換、欠失変異であるが、10%はスプライシング異常を引き起こす変異であり、さらにその半数はエクソン-イントロンの境界に存在するイントロン末端のスプライス部位と呼ばれる短い保存領域に存在する。スプライス部位配列はイントロンの5'末端、3'末端に存在し、それぞれをスプライソソームが正確に認識して1塩基もずれることなくイントロンを取り除く。このスプライス部位認識は通常の塩基の対合や結合タンパク質の親和性だけでは説明のつかない正確さで起こり、近年その正確さの基盤が複製や翻訳の際に利用されるのと同じ動力学的校正と呼ばれる原理によることが明らかとなってきた。一方で、その校正機構が低下した酵母ではスプライス部位に変異が存在してもイントロンが認識されスプライシングが起こることから、我々は全遺伝性疾患の5%にのぼるスプライス部位変異による遺伝性疾患において、スプライシングの正確性を緩めることで治療できるという仮説を立て研究を行っている。正確性を制御する方法として、我々はまず低分子化合物による方法に取り組んでいる。低分子化合物のスクリーニング方法として、我々はできるだけ特定のイントロン配列に特化していない化合物を得るため、新たに開発した実験系を用いて直接スプライソソームに影響する化合物を同定した。また、その手法の最初の例であるU5 snRNP検出系について論文報告した。このスクリーニング系により東京大学創薬オープンイノベーションセンターの保有する化合物ライブラリから複数の陽性化合物を同定し、さらに特定の方法で回収される内在性snRNP量の変動で二次スクリーニングを行い化合物を絞り込みが終了し、現在陽性化合物の活性について詳細な解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は大きく分けて2つあり、1:すでに得られていた化合物のスプライソソームへの影響を詳細に解析することと、2:1の化合物が得られたライブラリとは別の化合物ライブラリからU5 snRNPとは異なるsnRNPの検出系によりスクリーニングを行うことが大きな目標であった。1については、本年度報告した論文に記載されたようにsnRNPの変動を検討することができた。計画中で解析手段として示したスプライソソーム関連因子の細胞内局在の変動などについては、この解析では大きな変化が見られなかったが、実験系の確認を行うことができた。2についてはスクリーニングを実施し、複数の陽性化合物が得られている。また、一次スクリーニングではレポーター遺伝子を用いているため、一部外来遺伝子が含まれるsnRNPを検出しているが、二次スクリーニングのための細胞内在性のsnRNPへの影響を簡便に検討する手法を確立することができた。具体的にはsnRNP内の複数の中心的構成タンパク質に対するモノクローナル抗体群を樹立し、その中でsnRNP複合体を効率良く回収できる抗体を選択した。この抗体により化合物処理後の細胞抽出液中のsnRNPを回収し、その量の変化をsnRNAの比率の変動から解析した。これは複数の化合物の効果を同時に検討でき、しかも比較的少量の試料で解析可能であるため、化合物の二次スクリーニングに適した実験系である。この実験系の確立により、2のスクリーニングで得られた化合物を絞り込むことが可能になり、実際既知のスプライシング阻害剤とは異なる影響をsnRNPに及ぼす化合物が得られている。これらのことを合わせると、実験系の開発やスクリーニングなど、技術・時間のかかる段階を効率良く進めていることは明らかで、その結果も含めて計画は概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では次年度以降には、1. スプライス部位認識の正確さを検討するレポーター遺伝子の作成、2. 陽性化合物がスプライシングに及ぼす影響の網羅的解析、3. 正確さを維持する機構の細胞間での違いの検討、の3つの課題を挙げており、その計画の枠組みについては変更の必要はない。ただし研究の進展に伴い、研究の構想段階よりも現象の理解が進み、一部変更する部分がある。計画1に関しては、すでに化合物スクリーニングと並行して予定のレポーター作成が完了しただけでなく、レポーターを用いた化合物の評価も進んでおり、結果が有望であることから、疾患と関係ない恒常的なイントロンによるレポーターだけでなく、疾患原因遺伝子とその変異を含むイントロンレポーターを作成した方が化合物の応用を視野に入れた場合に重要である。そこで、26年度は実際に疾患原因となる変異を含み、その効果を再現するレポーターを作成して、有望な活性を示す化合物について、その効果を検討する。また、一部の入手可能な疾患患者由来細胞株ではスプライス部位変異が報告されたものがあることも分かり、その細胞をモデルとして化合物によるスプライシング異常の改善やスプライシング異常が原因となる細胞レベルの表現系の回復を検討する。また、27年度に予定していた網羅的解析についても、所属学部に導入された機器によるパイロット実験から次世代シーケンサーを用いた解析の有用性が示されたため、解析のパイプラインをレポーターを例としてブラッシュアップしていく。これは今後、患者細胞を対象とした化合物効果の検討を行う際にも効率的に結果を分析するための重要な手段となる。26年度はこれらの計画変更を取り入れて研究を進めることで、より実践的な視点からの研究推進を目指していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は所属学部の入居する建物の新営に伴うラボの引越があり、これまでの研究環境と異なる状況が次年度以降に予想されたことから、レポーター遺伝子の作成などで必須となる大腸菌の培養装置の購入に充てるために交付金額の配分を前倒しして申請した。また、次世代シーケンサーの使用に伴う試薬購入も予定外の出費であり、前倒し分にはこの費用も含めていた。ただ、培養装置については購入費用が当初予測よりも低く納められたこと、次世代シーケンサーについては機器購入後の最初の実験でトレーニング込みでの実施であったため一部試薬は無償であった。これらにより、次年度使用額が生じる結果となった。 引越後のラボ環境の変化に伴う必要機器については、最大のものが培養装置であり、大型フラスコの振とう培養器、試験管サイズでの少量培養に必要なインキュベーター2種類共が25年度に購入できたため、これ以上の費用は発生しないと考えている。そのため、次年度使用額は研究推進の方策にもあるように、引き続いて行う次世代シーケンサーによる解析と、新たに加えた患者由来細胞の解析に掛かる費用に充てていく。
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Research Products
(2 results)