2014 Fiscal Year Research-status Report
スプライシングの正確性制御機構の解明とスプライス部位変異克服への応用
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25460057
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
米田 宏 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (60431318)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スプライシング / スプライソソーム / スプライス部位変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
転写直後のpre-mRNAはイントロン領域がスプライシング反応により取り除かれる必要があり、この反応は巨大なRNA-蛋白質複合体酵素スプライソソームにより行われる。スプライソソームはイントロンの5'・3'両末端に存在するスプライス部位と3'末端の上流にあるブランチ部位の3ヶ所を認識して反応を開始するが、どこを除去するかで同じ遺伝子からでも産生される蛋白質が変わるため、スプライシングには一塩基単位の正確なRNA認識が必要である。イントロン・エクソンの認識配列変異はスプライシングパターンを劇的に変化させ、疾患原因となる。そのうち、3'スプライス部位変異は全遺伝性疾患の2~3%と見積もられ、3'スプライス部位変異の存在下でもスプライシングを可能にする薬剤を開発できれば、これらの疾患の治療が可能と考え、そのような化合物の同定を行って来た。昨年度までは、スプライソソームに影響を及ぼす化合物を我々の開発したレポーターで同定してきたが、今年度はさらにスクリーニングの対象を生薬由来の化合物にも広げ、いくつかの化合物を追加で同定した。さらに、得られた化合物について、3'スプライス部位変異を有するレポーター遺伝子や疾患患者由来細胞株を用いて、それらがスプライソソームに影響するだけでなく、実際に3'スプライス部位変異を含むイントロンのスプライシングを改善させる作用があるかを検討した。その結果、いくつかの薬剤がスプライス部位変異の存在下でも正常なスプライシングパターンをある程度回復させることを見出した。また、3'スプライス部位変異を有するレポーター遺伝子から産生されるmRNAを詳細に解析したところ、変異塩基の種類によりmRNAのパターンに特徴的な変化があり、スプライソソームがイントロン・エクソン境界を決定する機構の解明にも寄与する知見も得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに同定した化合物については、自分たちで作成したモノクローナル抗体を用いたsnRNP量変化の検出による2次スクリーニングが順調に進み、既知のスプライシングに作用する薬剤とは異なる作用点や特徴を有する化合物を得た。その中でも特徴が際立っていた化合物について全転写産物を対象とし、スプライシングパターン変化も検討できるタイプのマイクロアレイ解析を行い、化合物処理下のスプライシングパターンの変動を検出した。それをさらに個別のRT-PCRにより確認した結果、化合物のスプライシングに及ぼす影響はやはり既知の化合物とは異なることが明らかとなり、またその結果は化合物の作用標的を示唆するものであった。また、3'スプライス部位変異を有するレポーター遺伝子を用いて、スプライス部位変異存在下でのスプライシング回復活性を各化合物について検討したところ、これまでに4種類の化合物を見出した。1万数千の化合物からこれだけのヒットが得られたのは予想外であったが、そのうちいくつかについては化合物作用に関する過去の報告を組み合わせることで作用が説明できるものもあり、我々が求める活性を発揮する薬剤の作用標的は複数あることが確実となった。また、3'スプライス部位変異を有する患者細胞株において、変異により異常となったスプライシングパターンを回復させることができるか検討したところ、各薬剤をシンプルに処理した場合は大きな効果はほとんど見られなかったが、化合物の作用条件を検討することで患者細胞でもスプライシングパターンを回復させる条件を見出した。つまり細胞レベルでは求める事象を化合物で発生させられることを示した点でこれは大きなブレイクスルーであり、研究が当初の目的に向かって順調に進展しているとした理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果から当初の目的である「化合物により、3'スプライス部位変異によって引き起こされるスプライシング異常を改善すること」が、細胞レベルでは、原理的に可能であることを示すことができた。一方で、課題としては陽性化合物の具体的な作用標的が同定できていないこと、患者由来細胞株で化合物作用を有効にするために必要な条件について、なぜそれが必要なのかが明確でないことの2点が挙げられる。現在陽性化合物については共同研究により類縁化合物合成により構造展開を図り、構造活性相関を検討しているが、その過程で作用標的がある程度絞られつつある状況にある。次年度はこの情報を活用し、変異存在下でスプライシングを回復させる活性に直接関係する標的蛋白質を同定する。標的蛋白質の同定により、in vitro実験でのスクリーニング手法が導入可能になり、同じ作用を有する母核の異なる化合物を効率的に同定することができると予想される。同じ標的で異なる母核の化合物を得ることができれば、上に挙げた課題の2番目についても、複数の化合物からその条件の必要性の有無や意義を検討でき突破口につながると考えている。また、標的蛋白質が同定できることで、in vitro 実験での標的の阻害・調節活性の強弱と細胞内でのスプライシングに与える影響を比較することが可能になり、現在の類縁化合物の構造活性相関にも論理的な説明を与えることができると考えている。これらの知見や化合物を元にして、次は細胞レベルではなく個体レベルで変異の克服が可能になる方策を見いだせれば、当初の目標にさらに近づくことが可能になると期待している。
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Causes of Carryover |
今年度は所属学部の引越が終了し、実験環境もある程度整い実際に実験が以前とほぼ同じ状況で実施できることが確実となり、物品などで新たに必要なものが生じなかったことが使用額の削減につながった。また、スプライシング異常の改善活性を有する化合物の探索で陽性化合物が得られなかった場合はさらに化合物を購入したりスクリーニングを実施するなどして探索を続ける必要があったが、本年度の結果から、これまでに得られた化合物に解析対象とすべき陽性化合物が含まれることが明らかとなり、さらなるスクリーニングや追加の化合物購入費用が発生しなかった。これら2つの要因が大きく作用し、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は引き続いて陽性化合物の解析に用いる。とくに研究推進の方策にも述べた通り、陽性化合物の作用標的の同定実験が新たな計画として加わったので、その実験の推進に使用する。また、患者細胞での取り組みには様々な試薬や培養器具が必要であり、その詳細な解析を実施するための消耗品の購入などにも次年度使用額を充てていく予定である。
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