2013 Fiscal Year Research-status Report
四足動物の肩帯進化についての比較解剖学的および機能解剖学的研究
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25460257
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences |
Principal Investigator |
小泉 政啓 東京有明医療大学, 保健医療学部, 教授 (90146770)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 比較解剖学 / 肉眼解剖学 / 哺乳類 / 肩帯筋 / 烏口骨 / 棘上筋 / 上腕二頭筋 / 支配神経 |
Research Abstract |
今年度は主に,哺乳類の1)烏口骨退縮に伴う筋変化および2)背側肩帯筋群の観察を行った. [観察材料]コアラ2体3側,ネコ2体3側,カモノハシ4体6側,ハリモグラ2体3側 [結果と考察] 1)ハ虫類の段階で烏口骨の腹側に発達していた烏口上筋は,単孔類ではまだ存在し,同時に背側の肩甲骨部に棘上・棘下筋が出現する.これらの筋は同一の神経により支配され同じ筋原基から派生してきたものと考えられる.しかし真獣類で一般的な肩甲棘を境にした棘上窩・棘下窩の形成はまだ行われておらず,筋の配列も真獣類とは大きく異なっていた.また,初期の二頭筋の起始は,肩関節包から遊離した烏口骨の頭側縁にあるが,哺乳類において烏口骨が退縮する過程において,長頭と短頭に分化するとともに,長頭が次第に関節包に接するようになり,有袋類での中間段階を経て最終的に有胎盤類では長頭の腱が肩関節腔内に落ち込む事が確認された.2)有袋類のコアラで,前鋸筋支配に参加する第1肋間神経(Th1)の外側皮枝(Rcl)を観察した.その由来は胸神経の前枝運動成分の最背側で外肋間筋枝と同一層に位置していた.これは,C5,6から分枝する背側肩帯筋群への支配枝と同じ層であった.一方ネコでは,中斜角筋の浅層部分が下位肋骨まで伸びた長斜角筋が常在している.この支配枝はC7由来の長胸神経とTh2,3のRclの枝であった.しかもこれらの長斜角筋枝成分はすべて前枝運動成分の最背側を占めていた.つまり,コアラ,ネコとも背側肩帯筋群および長斜角筋への支配枝は,頚神経由来であれ肋間神経Rcl由来であれ,根部では肋間神経外肋間筋枝と同じ層序を占めることが明らかになった.つまりこの結果は,哺乳類の背側肩帯筋群は,形態学的に腹側体幹の筋の中で外肋間筋と同じ外側系列の筋と捉えることができることを示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は哺乳類の観察を主体とし,その烏口骨退縮に伴う筋変化,肩甲背筋群の進化を明らかにする研究計画であった.肩甲下筋の観察や機能的な側面からの観察はまだ十分になされていないが,ほぼ計画通りの進捗状況である.また,当初の予定通り,研究成果の一部を第10回国際脊椎動物形態学会(スペイン・バルセロナ)で発表した.さらに予備調査として,ハ虫類(オオトカゲ)や鳥類(ニワトリ)の肩帯筋の観察にも着手しており,哺乳類の肩帯筋の進化を考察する上できわめて有益な所見を得始めており,26年度の研究の進め方についてもほぼ目処がついている.
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は,ハ虫類(オオトカゲ,イグアナ)および両生類(サンショウウオ)の観察を行う予定である.ハ虫類や両生類の筋配列や神経の分枝パターンは哺乳類とは大きく異なっており,哺乳類との対応関係を正確に行う必要がある.25年度の事前調査によりおおよその対応関係は明らかになっているが,さらに精査して筋・神経の正確な同定を行う必要がある.その上で,烏口骨がきわめて発達し,さらに同じ四足歩行ながら歩行形態が哺乳類とは大きく異なるハ虫類において,烏口上筋や烏口下筋・肩甲下筋の形態を明らかにしていく.また事前調査により,飛翔に適応し特殊な筋骨格形態をもつニワトリ(鳥類)の肩帯筋の一部について,従来の記載とは異なる結果が観察された.そのため,予定を早めて26年度中にニワトリの肩帯筋についての観察を始める予定である.これらの動物種の所見集積には時間がかかることが予想される.そのため,26年度は所見観察に終始する予定である.27年度(最終年度)には,特殊な形態をもつカメ類(ハ虫類)の肩帯についての観察結果を加えて,最終的に肩帯進化について形態的・機能的に考察を加えて総合的にまとめ,結果を国際誌に投稿する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究成果の一部発表を行った国際脊椎動物形態学会への旅費(スペイン・バルセロナ)が,当初の計画より安い金額で済ますことができたこと,標本保管用の容器のうちいくつかは既存のものを流用できたこと,等により次年度使用金額が生じた. 次年度は,当初の予定より多くの標本を使用することになったため,標本固定用薬品や保存容器の購入に使用予定である.
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