2014 Fiscal Year Research-status Report
FDG―PETによる発症前アルツハイマー病診断の有用性に関する研究
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25461783
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田渕 肇 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (10286578)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | FDG-PET / アルツハイマー病 / 発症前診断 / 人間ドック / 病名告知 / 軽度認知障害 / レビー小体型認知症 |
Outline of Annual Research Achievements |
慶應義塾大学病院予防医療センターでスーパー癌ドック(全身FDG-PET検査)を受診した症例のうち、文書にて同意が得られた29例(2015年3月まで)に対して脳FDG-PETを追加撮像し、MRI検査、認知機能検査、心理検査等を実施した。気分・不安の評価尺度であるCES-D,IES,STAIについては、FDG-PET検査や認知機能検査の結果の告知後6週間後、6ヶ月後、1年後に再実施し、検査結果告知後の気分・不安の変化を評価した。29例中3例においてFDG-PET上でpreclinical ADを疑わせる所見(検査陽性)が認められた。結果告知は全例で希望された全例に対して行った。陽性3例中の1例については、告知後の気分・不安評価尺度において心理状態の悪化が認められており、さらなる長期評価が必要であると考えられている。上記結果について、国内の専門学会で発表した。 また、当院メモリークリニックを受診した軽度認知障害(MCI)を対象に、受診時に実施された認知機能検査の結果から、アルツハイマー病(AD)への進展リスクの検討を行った。少なくとも2年以上(平均3年)追跡できた健忘型MCI患者56名中、46.4%がADへ移行した。進展予測には視覚性記憶検査における遅延再生課題が最も鋭敏であり、レイの複雑図形検査カットオフ値9の時に、感度84.6%、特異度70%であった。 さらにメモリークリニックでは、軽度認知症患者を対象に、ADとレビー小体型認知症(DLB)の認知機能障害の差異に関する検討を行った。DLBではADと比べて視覚構成に関する課題や遂行機能に関する課題において成績低下がみられた。一方で、DLBでは論理性記憶課題の成績が良好であった。 メモリークリニック患者を対象とした調査については、国内外の専門学会や専門誌で発表を行い、認知症の診断等に関して専門家間での意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度のスーパー癌ドックにおけるFDG-PET研究の目標は40症例以上に対する調査実施であったが、同意を得て諸検査を実施できた症例は29例であった。症例リクルートが予定通りに進行していない理由として、スーパー癌ドックには多数の症例が集まったが、本研究に参加する条件として脳器質性疾患に対する不安を有する脳ドックを同時受診した症例のみを対象とすることを求められたため、対象者が予想数を大きく下回ったことが挙げられる。対象者の中で同意が得られた症例は約半数程度であった。登録された症例については、ほぼ全例で認知機能検査・心理検査ともに問題なく実施されたが、一部対象者からは結果告知の影響に関する予後調査で協力を得られていない。 当院のメモリークリニック受診患者を対象とした研究では、MCIからADへの進展に関する検討、およびDLBの臨床像に関する検討を行った。これらの検討には、平成25年度以前に得られた患者データも合わせて利用できたため、26年度中に比較的多数例からなるデータベースを構築することが可能であり、データの解析の結果、新たな知見を得ることができた。MCIから認知症への進展予測については海外の専門学会で発表し、現在論文投稿中である。DLB研究については海外専門学会で発表を行った。 しかし本研究の第1の目的はFDG-PET検査によるAD診断方法の確立にあるため、研究目的の達成度はSlightly Delayedとした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の目標は、さらに脳FDG-PETの新規症例を組み入れ、認知機能・心理検査・MRI検査等を追加実施し、発症前診断方法の確立を目指すことである。さらにデータの蓄積によるFDG-PET検査の健常データベースの作成を目指す。結果告知後の追跡(心理検査の実施)も継続し、告知による心理変化に関する検討を行う。平成27年度も26年度同様にデータ解析を行い、現状に関する学会報告を行う。本年5月からは当院においてアミロイドPETの実施を予定しており、スーパー癌ドック受診者のうち同意が得られた対象者にはアミロイドPETを同時に実施する。アミロイドPETの実施については、すでに慶應義塾大学医学部の倫理委員会において研究計画の承認を得ている。 また、メモリークリニックを受診した自覚的もの忘れを訴える患者(かつ他覚的な記憶障害はない患者)、および精神神経科を受診した認知機能正常の高齢うつ病患者に対しても、アミロイドPETの実施を予定している。これらの患者に対して詳細な認知機能検査・心理検査を実施し、その経過をフォローアップすることで、精神的な症状を訴えて病院を受診する患者に於けるADの発症前診断方法の確立、および診断結果告知の心理的影響に関する新たな知見が得られることが期待される。 本研究全体を通じて得られたADの発症前診断方法・進行予測の方法・有用なAD診断方法に関する知見は、専門家だけでなく家族会などの患者団体によって催される講演会などでも発表していく予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、症例リクルート数が予定数を下回ったこともあり、検査・追跡調査等が予定していた件数実施することができなかった。早期診断に関する調査や、認知症診断に関する調査については、比較的多数例を解析することとなったが、平成25年度以前のデータも使用したこともあり、当初見込まれていた程の予算を使用することがなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度も、積極的に症例をリクルートし、データ解析を実施して結果を発表する。また早期診断ツールとしての健常者データベース構築を目指す予定であり、認知機能検査や心理検査の実施費用、人件費、解析費用などの支出を予定している。平成27年度はアミロイドPETを使用した調査も予定しており、同様に認知機能検査や心理検査の実施費用、人件費、解析費用などの支出を予定している。また、上記結果の発表のための予算も必要と考えられる。以上を目的に、次年度仕様額を当初の平成27年度予算に加えて使用する予定である。
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