2014 Fiscal Year Research-status Report
精神障害者の受診開始の経緯に関する研究-未治療期のライフストーリーとその考察-
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25463588
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
森 真喜子 北里大学, 看護学部, 准教授 (80386789)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾崎 章子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30305429)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 未治療期 / 精神障害者 / レジリエンス / 地域精神保健医療福祉制度 / 心的外傷 / 障害学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目にあたる今年度は、精神障害を有し、精神科医療機関に通院中の研究参加者を対象とするインタビュー調査を開始した。調査内容は、精神障害発症前後に体験された生活上のエピソードとその体験が治療過程やその後の人生に与えた影響についてであり、具体的には①精神科的エピソードにより医療への最初の受診行動を行うまでの経過、②受診に向けて地域精神保健福祉サービス機関や医療機関から受けた援助、③最初の受診行動後の経過ならびにその時に医療機関や地域精神保健サービス機関から受けた援助、④受診後に地域生活を送る上で役に立った医療保健福祉専門職の援助あるいは希望する援助、⑤現在の日常生活・社会活動について、であった。 これまでに6ケースのインタビュー・データをストラウス・コービン版のグラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。その結果、「初めての病的体験とそれを取り巻く環境」が「受診の必要性の自覚」を促進し、「初めての受療行動」へと結びついたものの、医療機関で抱いた不信感や治療効果の実感の乏しさ、副作用の苦しみに伴い、転院や主治医を変更するなどの「治療内容の変遷」を経験していた。その後の信頼できる保健医療福祉の専門家や精神障害を有する仲間との新たな出会いや、恋愛・結婚といったライフイベントを経て、自己理解とともに自己受容・社会受容を包括する障害受容を基盤とした「価値観の変容」や「進路の切り替え」を実現していた。しかしながら、現状には不全感や不安も抱いており、さらなる安定や成長を求めて、「知識や技術の習得」、さらには「資格や就労の機会を得るための行動」を起こす積極性や未来に対する希望を抱けるまでの精神状態を取り戻していた。一方、他者から関心を向けられる特質とそれを維持する能力の獲得、また、他者への信頼感の持続に課題のあるケースの場合、価値観の変容や進路の切り替えには至りにくいことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の研究参加者(調査対象者)は精神障害者であることから、聞き取り調査の前に、病院の訪問看護ステーションや外来・デイケア部門等の調査協力機関の担当者と特に配慮すべき点について、ケース別の綿密な打ち合わせを実施すると同時に、調査実施前後の研究参加者の病状の変化に対応するための医療支援体制の整備について協力を求めることとしている。 また、研究者が研究参加者と初対面という条件において聞き取り調査を実施するのではなく、事前に複数回の面会の機会を設けることにより、研究者と研究参加者との信頼関係の構築に努め、研究参加者のより深く率直な語りを引き出すことを重視してきた。 以上の理由により、インタビュー調査の進行がやや遅れている現状にあるものの、今年度までの調査実施の過程で確立した調査協力機関の受け入れ体制を最大限に活用し、最終年度には調査の一層の効率化が促進するものと予測している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.情報収集 協力施設より紹介を受けた精神障害者を対象に、研究者が文書と口頭で本研究の趣旨を説明し、同意を得られた人を研究参加者とする。 本人の同意を得て、カルテ等からデモグラフィック・データに関する情報収集を行う。具体的には、現在の年齢、性別、精神障害発症の時期、精神障害発病当時の居住地等、地域生活の状況、保健医療福祉の関連機関との交流の有無、保健医療福祉の関連機関の担当者との人間関係等、現在の社会貢献、サークルや趣味、社会活動等に関する情報収集を行う。 1回40~60分程度の半構成的な面接を実施する。研究参加者から当時の手紙や写真、日記などが提示された場合は、それらも情報とする。聞き取る内容は「精神障害発病前後の記憶に残るエピソード」についてであり、具体的には、精神科的エピソードにより医療への最初の受診行動を行うまでの経過、受診に向けて地域精神保健福祉サービス機関や医療機関から受けた援助、最初の受診行動後の経過ならびにその時に医療機関や地域精神保健サービス機関から受けた援助、受診後に地域生活を送る上で役に立った医療保健福祉専門職の援助、あるいは希望する援助やサービス等、現在の日常生活、社会活動等に関する情報収集を行う。 2.データ分析 作成した逐語録から研究参加者のライフストーリーを再構成し、精神障害発病前後の生活上のエピソードの意味とその体験が治療過程やその後の人生に与えた影響について、ストラウス・コービン版のグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析する。ボナノによるレジリエンスの概念や、ジュディス・L・ハーマンによるPTSDの主要概念と共に、障害学の定義や主要概念を照らし合わせながら、エピソードの持つ意味を考える。研究協力者・連携研究者と分析の経過を共有し、必要に応じた修正を行うと同時に、研究分担者によるスーパービジョンを受け、データ分析の信頼性・妥当性を確保する。
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Causes of Carryover |
データ収集のためのインタビュー調査の実施が予定より遅れていることにより、調査の経費として予算化している旅費・謝礼・印刷費等の支出がまだ発生していないことが理由として挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度以降は、既に本研究課題に関連する研究成果の発表が決定している国際学会学術集会や国内学会学術集会参加に伴う旅費や学会参加費の支出を予定している。 また、データ収集のためのインタビュー調査が継続的に実施されることに伴う必要経費として、旅費・謝礼・印刷費等の支出を予定している。
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Research Products
(9 results)