2014 Fiscal Year Research-status Report
都市部及び農村地域における高齢者の孤立化に関する実証的・文献学的研究
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25500008
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
船木 祝 札幌医科大学, 医療人育成センター, 講師 (60624921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
旗手 俊彦 札幌医科大学, 医療人育成センター, 准教授 (00198748)
山本 武志 札幌医科大学, 医療人育成センター, 講師 (00364167)
粟屋 剛 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (20151194)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 独居高齢者 / 自律 / 孤独 / 国際情報交換(ドイツ) / 人間関係 / 高齢者医療 / 終末期医療 / 地域医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度(2年目)は、独居高齢者の孤立化問題に対する指針を見出すため、前年度の文献学的研究を踏まえて、札幌市及び留萌市在住の独居高齢者に関する実態調査を行った。(1)その結果、独居高齢者が現状に折り合いをつけ、前向きに生きていくに至るには、一人暮らしの解釈、言葉、行動、過去の解釈、自分の性格の分析といった自己との交渉、及び信頼できる人間関係の構築や周囲への働きかけといった他者との絶え間ない交渉プロセスが必要であることが明らかになった。(2)船木は7月、ドイツでの高齢者孤立化の状況の調査のため、ドイツを訪問した。ビーレフェルト大学公衆衛生学講座Kerstin Haemel教授からは、施設での孤独感、高齢者のボランティアなどの社会参加、老年教育の必要性などの指摘があった。Mobarak Khan講師へのバングラデッシュの独居高齢者についてのインタビューを通じて、独居高齢者が安心を得るためには、移動の援助、経済的支援、精神的支援など様々な側面からの援助が必要であるとの認識が得られた。トリーア大学心理学講座Sigrun-Heide Filipp教授からは、老年が先の見通しのしにくい時期であること、少数でも親密な人間関係が重要であるといった指摘を得ることができた。(3)8月に北海道生命倫理研究会夏季セミナーにおいて、芝浦工業大学小出泰士教授を講演のため招待した。フランスの終末期医療においては、死の一点に議論が集中しているのではなく、緩和ケアや寄り添いを通じて、よりよい死に至るまでの生のプロセスを重視しているとの指摘を得ることができた。(4)平成27年 3月、シカゴでのアメリカエイジング学会において、2年間の研究成果を報告した。わが国の高齢者の現状・生活・QOL・幸福感について報告するとともに、学会参加を通じて、老年社会学研究の最先端の知識を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
札幌市、及び留萌市の協力団体から、快く協力を得ることができ、12名の研究参加者へのインタビュー調査を滞りなく終えることができた。独居高齢者の置かれている状況について哲学・倫理学的観点、法学的観点、社会学的観点から分析を進め、船木、旗手が主催する年2回の北海道生命倫理研究会で研究成果を報告することができた。8月には北海道生命倫理研究会夏季セミナーにおいて、船木は、自立した・自由な生活スタイルの享受だけではなく、現実の受容が独居高齢者には重要であることを報告した。旗手は、独居高齢者をサポートする介護保険制度の仕組みについて報告した。 10月、第26回日本生命倫理学会年次大会の報告の後、共同研究者間で逐語録を再度読み返し、さらに分析結果を精査した。その結果、独居高齢者は、自己との関係、及び他者との関係において紆余曲折を経たプロセスを歩んでいるとの重要な認識に至った。前者においては、一人暮らしのとらえ方、楽しみや生きがいを見出すための姿勢、辛い時期を乗り越えるための姿勢、過去を振ること、自分の性格を分析することにおいて様々な工夫が認められた。後者においては、支えとなる存在をもつこと、人に必要とされることへの試行錯誤が認められた。 国外(ドイツ)においては、ビーレフェルト大学公衆衛生学講座、及びトリーア大学心理学講座から、インタビュー調査のための準備、場所の確保、資料の収集等のため、快く協力を得ることができ、ドイツの事情だけではなく、バングラデッシュといった南アジアの高齢者の状況についてもインタビュー調査をすることができた。こうしたドイツでのインタビュー調査と、シカゴでのアメリカエイジング学会での報告は、次年度、独居高齢者問題さらに焦点化、明確化するための重要な視点を提供している。
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Strategy for Future Research Activity |
従来通り、研究代表者及び研究分担者間で随時メールで意見交換するとともに、班会議を重ねることにより、研究における諸課題をその都度解決しつつ、研究を進行させたい。 平成27年度は、昨年度のヨーロッパ(ドイツ)、南アジア(バングラデッシュ)でのインタビュー調査を分析し、国際的観点と日本の状況との比較検討をする。またシカゴでのアメリカエイジング学会について報告をまとめるとともに、最新の老年社会学研究と本研究グループの分析成果を照らし合わせる。こうした国際的状況を踏まえ、さらに哲学的、社会学的、法学的観点から考察を深化させ、問題を焦点化、明確化する。 独居高齢者の一人暮らしのとらえ方、日々の生活を送るうえでの気持ち、過去の解釈、自分との向き合い方、周囲と関係性について、本研究グループがこれまで明らかにしてきたことが、他の地域の高齢者にも当てはまるかを再検討をする。 従来通り北海道生命倫理研究会の年2回のセミナーを主催する。とくに冬季セミナーでは、独居高齢者問題に焦点を絞り、医療、看護関係者、協力団体の職員等に参加を募り、研究成果を報告し、高齢者の一人暮らしを支える精神的、社会的要因をともに考える機会をもちたい。 全国学会の応募シンポジウム、もしくは応募ワークショップにおいて研究成果を披露し、参加者からの批判を仰ぐ。その後、研究代表者、研究分担者それぞれの観点から考察を深めるとともに、意見交換を繰り返し、論文を作成する。
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Causes of Carryover |
海外研究者が、聞き取り調査への謝金の受け取りを辞退したため、54,386円の未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用金を、本年度の研究に必要な有識者を札幌医科大学に招くための費用に使用する。
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Research Products
(15 results)