2013 Fiscal Year Research-status Report
現代イギリス移民系女性アーティストの視覚的表象文化に関する研究
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25511008
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
萩原 弘子 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (90159088)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ブラック・アート / 移民論 / 視覚表象 / ジェンダー |
Research Abstract |
1980年~90年代における在イギリス移民系女性アーティストの創作に焦点をあてて研究した。当該期間に活動した女性アーティストが参加した展覧会の図録、モノグラフを現地で収集した。すでに収集済みの資料と併せて、女性というジェンダー位置に注目して、作品と論考、評論を整理した。 日本の美術館が所蔵する、パキスタン、シンガポールといった英コモンウェルスのアーティストの作品関係資料を集めて、移動と創作についての分析に備えた。「アジアのアーティスト」として日本で作品が所蔵されている者のなかには、実際にはロンドンを創作の拠点とする者もいること、彼らの移動に注目する視点が日本では欠落していることが見えてきた。 1980~90年代に数多く開催された移民系(当時の語で「ブラック」)アーティストの作品展は、ほとんどが10人~25人ものアーティストの作品を各人数点ずつ集めた、いわゆる総覧展の形式であり、そのなかで女性は常に少数であった。本年度の研究では、まずこの時期のそうしたブラック・アーティスト展をあるかぎり調査し、その助成者(専門的美術機構、地方行政府など)の種類、「反人種主義」「機会平等」などの政治目標と展覧会方針の関係といったことを考察した。その結果、展覧会の歴史を3期に区分するのがよいという確信に至った。3期のうちの第1期(1980年代前半)は、アーティストたちが美術機構の現状に対する批判的視点に立って、強い主体性をもってブラック・アーティストのグループ展に関わった時代である。この時期について考察する論文を発表した。数多く行なわれた当時のブラック・アーティスト総覧展のなかには、女性アーティストだけの展覧会もあり、それが「ブラック・フェミニズム」の言挙げでもあったという点もそこで論じた。1980年代英国の移民系アーティストを研究するには「ブラック」という概念が重要であることも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、現代イギリスの視覚芸術領域で活動する、旧植民地、第3世界からの移民に出自をもつ女性アーティストの創作に焦点をあて、ファイン・アートという表象文化と社会関係(移民、人種、ジェンダー、階級)、そして移動(migration)という行為との関連性を明らかにするカルチュラル・スタディーズ研究を行なうものだ。 「研究の目的」で明らかにするとした2点は、(1)移民系女性アーティストという社会的位置から創作を続けることが、既存の文化的秩序に対するどのような挑戦になっているか、(2)移民、女性、文化的他者と、幾重にも周縁化された位置での創作活動が白人女性によるフェミニズム運動・思想に対するどのような挑戦になっているか、であった。(1)については、1980年代前半に時代を限って、アフロ・カリブ系、アジア系、アフリカ系の女性アーティストが参加したいくつものブラック・アーティスト展を分析した結果、肖像画、風景画といった既存の表象形式が権力を含意することを示せるようになった。(2)については、同様に1980年代前半に焦点を絞って、ブラック女性アーティストだけの作品展3つを考察するなかで、当時すでに一定の成果を挙げていたフェミニスト・アート運動の白人中心性の批判と、ブラック・フェミニズムの言挙げとしての意味があったことを示した。 3期に分けた時代区分のうち、第2期(1980年代後半)、第3期(1990年代)についての考察は今後の課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
3期に分けた時代区分のうち、第2期(1980年代後半)、第3期(1990年代)において、「ブラック・アート」の概念が、どのように使われ、その含意を変えていったかを明らかにする。第2期は、大ロンドン行政区(GLC)の展覧会への関与、公的助成を受ける主流の美術館によるブラック・アーテーィスト作品展開催、そうした流れに抵抗するブラック・アーティストの展覧会などが、5-6年のうちに行なわれた興味深い時期であった。第3期には、それまでの展覧会の特徴であった総覧展ではなく、テーマ展が開催されるようになった。しかし美術機構の人種主義が打破されたわけでもなかった。第2期、第3期における「ブラック・アート」の含意が、第1期のそれとはかなり違ったものになったことを明らかにする。この時期に構想されていたブラック・アート・センターが頓挫したことの経緯、その理念の問題点についても明らかにしたい。1980年代後半になると、女性アーティストたちは「女性」を結集軸として連帯し、人種を越えてともに活動していたが、それを可能にしたのはフェミニズム思想のどういう進展だったのかにも目を向けたい。また、1994年に設立の Institute of New International Visual Artsの設置趣旨と活動を検討して、ブラック・アート運動、女性アーティストたちのブラック・フェミニズム運動との齟齬や矛盾を考察し、ブラック・アート制度化の功罪を考察する予定だ。全体としては、文化行政についての社会学的研究ではなく、美術機構と展覧会に焦点をあてて、人種的、ジェンダー的分離主義の問題、視覚表象と人種、ジェンダーの問題に関する思想史、文化史的研究としたい。
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Research Products
(1 results)