2015 Fiscal Year Annual Research Report
現代イギリス移民系女性アーティストの視覚的表象文化に関する研究
Project/Area Number |
25511008
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
萩原 弘子 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (90159088)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ジェンダー / ブラック・アート / 移民論 / 視覚表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
先行する2年間に収集した作品、評論、展覧会評を系統立てて整理し、まとめの作業を行なった。まず3期に分けた時代区分のうち、第2期(1980年代後半)の最後、1987年~89年の「ブラック・アート論争」を考察する論考を発表した。またブラック・アート運動に参加した女性アーティストの創作(第2期、3期)を位置づける美術史的、思想史的文脈を考察する論考も発表した。それらと並行して進めたのが、1980年代後半から英国芸術評議会がうちだすようになったマイノリティの芸術活動振興策の検討である。これは第3期(1990年代)における英国芸術評議会の多文化主義政策についての分析のためである。 移民系女性アーティストが被る周縁化を測る指標は出しにくいが、美術館での展示機会の増加、美術賞の候補指名、美術学校教授職への就任といった状況の変化は認められた。 移民、女性、文化的他者と、幾重にも周縁化された位置で創作する移民系女性アーティストの作品が、視覚的表象文化として何に対抗し、挑戦しているかを明らかにするため、場所と空間をテーマに創作する6人の作品について表象分析を行なった。場所や風景、描かれた絵画空間に排除や他者化の機能があると彼らは気づいた。1970年代来の白人女性中心のフェミニズム・アート運動では、男性から他者化される女性の外貌、モノ化といったテーマでの表現は数多くあった。しかし場所、風景、絵画空間のテーマは移動(migration)を経験した者ならではのものだ。彼らの作品は場所と空間についての新しい感受性の提起でもあった。 3年間の研究により、1980年代から90年代半ばの約15年間で、「ブラック・アート」の概念が、どのように使われ、その含意を変えていったかを明らかにするなかで、移民系で女性という位置を生きるアーティストたちの創作とその展示がつくりだした新視点があることも明らかにできた。
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