2013 Fiscal Year Research-status Report
サイバー・カルチャーの新たな展開-その<身体>解釈は何を示すのかー
Project/Area Number |
25511014
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
根村 直美 日本大学, 経済学部, 教授 (10251696)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | サイバー・カルチャー / 身体 / 自己 |
Research Abstract |
サイバー・カルチャーには、電子的環境を介して<サイボーグ>という<身体>経験が立ち現れはじめていることを顕在化しようとする新たな動向がうまれつつある。しかしながら、その動向を捉える研究が<経験科学>という枠組みにとどまるならば、その<サイボーグ>という<身体>経験がどのようなものかを具体的に明らかにすることには必ずしも成功しないと考えられる。<経験>の科学的な記述は、<既に秩序化された世界についての首尾一貫した記述>への収斂へと向かわざるを得ないからである。 そこで、本研究では、現在の電子的環境がうみだしつつある<身体>解釈を顕在化しようとする我々に求められるのは、様々なテクノロジーやメディア形式が集合し交差しあいながら展開するサイバー・カルチャーを、ドゥルーズの言う「芸術」として捉えるような視点であることを明らかにした。すなわち、サイバー・カルチャーの新たな動向を、どのような世界の可能性を顕在化しようとしているのかという視点から分析することが必要なのである。また、覆い隠されていた<経験>を概念化するという意味での「哲学」の視点が要請される。そして、そうした「哲学」を実践するために、従来の<経験科学>とは異なる方法が求められているのである。 実際、電子メディアによってうみだされつつある<経験>を分析するニュー・メディア・スタディーズでは、旧来のメディア・スタディーズとは異なる方法が試みられている。それが現象学的方法である。本研究では、覆い隠された<経験>を概念化する方法としての現象学的方法は<哲学>のための方法であるが、その方法は、現象学を専門とする哲学者が提唱する事象の<本質>を取りだす試みではないことも示した。本研究がとる現象学的方法は、<ラディカル化された現象学>的方法である。さらに、この現象学的方法は解釈学的方法を要請することも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の第一の目的は、サイバー・カルチャーの展開の概観を通じ、近年のサイバー・カルチャーにおいては、電子テクノロジーが深く組み込まれた環境に生きる我々がうみだしつつある<身体>解釈を顕在化する試みが重要な位置をしめるようになっていることを明らかにすることであった。また、サイボーグ・パフォーマンスやデジタル・シアターなど、デジタル・パフォーマンスと言われる作品群を分析し、電子テクノロジー社会に生きることを通して我々がうみだしつつある<身体>解釈の概念化をより一層進展させることを第2の目的とした。そして、そうした<身体>解釈は、既存の社会システムや経済システムに、どのような変容をせまることになるのかを考察することを第3の目的とした。 本研究では、まず、ウィリアム・ギブスン作品の分析などを通じて、初期のサイバー・カルチャーは、<希望的近未来>への希求、すなわち、<身体>からの解放という欲望が電子テクノロジーにより実現された世界の希求を表現する試みであったことを示した。 一方、「ゲーム・プレイ」の経験についての先行研究などに基づき、電子テクノロジー社会に生きる我々が今まさにうみだしつつある<身体>解釈を顕在化する試みが近年のサイバー・カルチャーの展開においては重要なものとなっていることを明らかにすることもできた。また、こうした試みを概念化するのために求められるのはラディカルな現象学的方法であることを示唆することができた。 しかしながら、研究方法やその理論的背景の明確化と並行して行うことを予定していたにもかかわらず、デジタル・パフォーマンスの作品群について概観し、必要とされる作品群を収集するといったことはできなかった。また、デジタル・パフォーマンスに関する文献を収集することもできなかった。そのため、若干の遅れが生じていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年以降は、まず、平成25年度にはできなかったデジタル・パフォーマンスと言われる作品群の概観および収集を行い、その分析に着手する。そして、電子テクノロジー社会に生きる我々がうみだしつつある<身体>解釈がどのようなものかについてより一層の概念化を試みる。また、そうした<身体>解釈が、既存の社会システムや経済システムに、どのような変容をせまることになるのかを考察していく。 本研究において特に注目したいと考えているのは、デジタル・パフォーマンスのうちでも、「初音ミク」である。デジタル・パフォーマンスの中でも初音ミクはいわゆるリアル・ライフにおいて生物学的・政治学的ユニットとしては存在してはいない。これまでデジタル・パフォーマンスと言えば、リアル・ライフにおける生物学的・政治学的ユニットとして存在する<人間>がパフォーマンスを行う「サイボーグ・パフォーマンス」が注目されてきた。しかしながら、初音ミクはそうしたサイボーグ・パフォーマンスとも異なる要素を含みもつと本研究者は考えている。本研究では、比較研究のためにサイボーグ・パフォーマンスを視野に入れつつも初音ミクが表す<身体>解釈の分析を中心に研究を進める予定である。 なお、その初音ミクの分析に取り組むにあたっては、いわゆるサイエンス・フィクションに表現された<身体>解釈を明らかにすることを試みる。具体的には、『ゴースト・イン・ザ・シェル/攻殻機動隊』シリーズにおいて呈示されている<身体>解釈について考察を試み、初音ミクの分析の手がかりとする。 こうした研究の際には、解釈学的な現象学的方法をとる。ただし、その現象学的方法は、事象の<本質>を取りだす試みではない。その意味でこの方法は<ラディカル化>された現象学的方法である。そのラディカル化された現象学的方法によって、まさに生きられている<身体>経験について省察していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
注文した洋書が予算の使用期限内に届かなかったために、次年度の予算での購入とせざるを得なくなった。 発注した洋書が届き次第、その支払に当てる。
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Research Products
(2 results)