2015 Fiscal Year Research-status Report
サイバー・カルチャーの新たな展開-その<身体>解釈は何を示すのかー
Project/Area Number |
25511014
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
根村 直美 日本大学, 経済学部, 教授 (10251696)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | デジタル・パフォーマンス / 初音ミク / マース・カニングハム / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、近年のサイバー・カルチャーが顕在化させつつある我々の<身体>解釈を概念化すべく、デジタル・パフォーマンスの作品群の分析に取り組んだ。具体的には、声合成ソフトによる作品の創出が中核である「初音ミク」が、どのような<身体>解釈を示唆しているのかを明らかにすることを目指した。その際には、初音ミクを、いわゆる「デジタル・パフォーマンス」との関連で分析し、その作品群と接続させるという系譜学的考察を試みた。 その考察においては、マース・カニングハムのデジタル・パフォーマンスを取り上げ、初音ミクとの比較検討を行なった。そして、カニングハムと初音ミクに共通するのは、身体を「内面的なもの」の表現として考えることの否定であることを明らかにした。すなわち、初音ミクとデジタル・パフォーマンスの新たな系譜学が示唆するのは、フーコーの言うような「牢獄たる魂」からの<身体の解放>にほかならず、そのような身体の「牢獄たる魂」からの解放はまた、身体を脱自然化し、これまでとは異なるあり方への扉を開きつつある、と結論づけている。 本研究では、初音ミクとカニングハムは、有機体としての身体を神秘化する思考を断ち切るポスト・ヒューマニズム的なパフォーマンスという視点によって接続可能であり、理論的に一つの系譜を形づくっていることを示すことができた。そうした分析は、緒についたばかりの初音ミクやデジタル・パフォーマンスの研究に対して新たな知見をもたらしたのみならず、我々の身体の理解が今後どのように展開していくのかについて重要な示唆をもたらしたと考えられるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、平成26年度に続き、デジタル・パフォーマンスと捉えられる作品群の収集・分析に取り組み、電子テクノロジー社会に生きることを通じて我々が生み出しつつある<身体>解釈の概念化を試みることを目指した。 本研究が注目したのは、日本発のデジタル・パフォーマンス、「初音ミク」に示された<身体>解釈である。というのも、初音ミクは、生物学的・政治的ユニットとしては<非在>という点で非常に特異な存在であり、そこに示された図式・イメージの分析は、電子テクノロジー社会に生きる我々が今まさに生み出しつつある<身体>解釈を明らかにすると判断したからである。しかし、平成26年度は、デジタル・パフォーマンスに援用しうるような分析枠組みを得るべく、まず言語表現を用いた作品の分析を進めることとしたため、デジタル・パフォーマンスについての知見をまとめるまでには至らなかった。平成27年度は、前年度の考察を受け、さらにその考察の対象を、初音ミクのみならず、マース・カニングハムにまで広げることを通じて、デジタル・パフォーマンスについてこれまでにはない知見をまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、これまで行ってきた押井守監督の映画『Ghost in the Shell/攻殻機動隊』や『イノセンス』の分析、および、初音ミクやマース・カニングハムなどデジタル・パフォーマンスの作品群の分析を総合し、電子テクノロジー社会に生きることを通じて我々が生み出しつつある<身体>解釈の概念化をより一層進展させる。そして、その<身体>解釈がアニメや小説など日本発のポスト・ヒューマン思想と深くかかわっていることを示す。その際には、現代の思想・哲学、また、文化論との関連も探っていく。 さらに、それらの考察に基づき、サイバー・カルチャー、とりわけ、日本発のサイバー・カルチャーが示す<身体>解釈がどのような倫理を呼び込み、既存の社会システムをどう変容させるのかについて考察を試みる。
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