2013 Fiscal Year Research-status Report
ニホンジカにおける放射性物質の移行・蓄積過程の解明とその遺伝的変異への影響
Project/Area Number |
25517003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
小金澤 正昭 宇都宮大学, 農学部, 教授 (90241851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 えみ子 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (20208341)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / 移行 / 濃縮 / 森林生態系 / 細胞遺伝学的影響 / ニホンジカ |
Research Abstract |
2013年9月に栃木県日光市の男体山(標高2,488m)南斜面(シカの越冬地)において、餌植物であるミズナラ(堅果と葉:1か所)、カラマツ(樹皮:1か所)、ミヤコザサ(当年葉と前年葉:8か所)の試料を採取し、放射性セシウム(Cs)濃度を測定した。また、2014年2月に奥日光(27頭)で、3月に足尾(90頭)で計117頭のシカを捕獲し、奥日光では全頭から、足尾では60頭から、それぞれ筋肉および臓器(心臓、腎臓、肝臓)、消化管内容物(第一胃内容物、直腸内容物)、血液を採取し、Cs濃度の測定を行った。 本年度は、2012年と2013年に日光と足尾で捕獲したシカから、筋肉、臓器類等(9部位)と冬季の餌植物8種類を採取し、Cs濃度を測定した。筋肉等9部位のCs濃度は、両地域ともに直腸内容物が最も高く、次いで第一胃内容物、筋肉、腎臓、肝臓、心臓、肺、胎児、羊水の順であった。このことから、放射性Csはシカの体内全体に蓄積していることが明らかになった、また、直腸内容物は、第一胃内容物や餌植物よりも高い濃度であったことから、放射性Csは採食、消化、吸収を通じて、シカの消化管内で濃縮され、体内に一定の濃度で蓄積されるものの、多くは体外へ排泄されていることが示唆された。 細胞遺伝学的影響を見るために、微量全血法により培養した血液細胞から常法に従い染色体標本を作製し、数的および構造的異常(異数性、転座など)の有無を解析した。その結果、ニホンジカの染色体数は2n=68であり、異数性、転座などの変異は見られなかった。血液の放射性Cs濃度は、2012年と比較すると2013年は約半量に減少していた。また、いずれの年においても染色体の変異が見られなかったことから、空間線量60kBq/m2以下の地域では子孫への影響は極めて少ないものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
森林生態系における土壌―植物(ササ)-動物(シカ)系の構成要素間での放射性物質の移行と蓄積動態の定量的把握およびそのメカニズムのうち、餌植物―動物(シカ)系については、多数の基礎データを収集することができた。しかし、シカの体内の筋肉や臓器類のCs濃度は経年的に低下する傾向にあることから、現在用いているNaI(TI)ウエル型シンチレーション式γ-カウンターでは、検出限界(36Bq/kg)が高いため、より精度の高い測定が可能なゲルマニュウム半導体検知器を用いる必要がある。しかし、この測定にはU8容器(サンプル量が100ml)を用いることから、一定の採取量を確保する採取方法に変更する必要がある。また、土壌―植物系については、本年度は試行的な試料採取に留まったために、次年度においては体系的な採取を行う必要がある。細胞遺伝学的影響については、微量全血法により培養した血液細胞から常法に従い染色体標本を作製し、数的および構造的異常(異数性、転座など)の有無を解析する手法を用いたが、2012年、13年の試料において、すでに血液中のCs濃度は低下しており、2014年の試料においても、その濃度は減少することが予想される。また、数的および構造的異常(異数性、転座など)は観察されなかったが、試料数が少なく、当初予定していた分析を行うに必要な試料を確保することができなかった。これは、駆除個体からの血液採集は、死後3時間を経過すると著しく採血量が少なくなることが経験的に知られているが、実際に捕殺後、死体の回収に多くの時間を要したために、採血までに3時間以上を要していた。したがって、試料数の確保と精度を上げるための採取方法について検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の調査において、採取方法上の課題が指摘された。これまでの試料採取は、行政の行う個体数調整に同行する形で実施されてきた。この方法は、多数の駆除従事者による巻狩り方式によるもので、捕殺したシカを回収し、解剖後、試料を採取するものであった。この方法は、一日に最高90頭の捕獲が可能なほど、短期間に多数の試料を採取できる点で優れているが、回収に多くの時間を要するという問題が指摘された。これは、従事者の安全確保のために、従事者全員の射撃が終了したことを確認した上で、回収作業に入るため、回収そのものに多くの時間と労力を要するだけでなく、開始時間が遅れるためである。実際に、血液の採取では、捕殺から回収、採血にまでの時間が4時間以上かかる場合が多く、血液が凝固し採血できない状況が発生した。これを解決する方法としては、採集数は少なくなるが、車上から頭部を狙撃によるシャープシューティング方式がある。この方式は、射殺後、直ちに回収作業に入ることができるために、回収までの時間を短かくすることができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は年度末の2014年2月下旬から例年ない大雪となり、日光、足尾両地区とも個体数調整の実施が中止あるいは3月に延期となり、期日が限られたうえに、予定していた4回の現地採取が2回になったために、試料採取に係る謝金の支出が予定の半分になった。 そこで、翌年度分として請求した助成金とあわせて、前年度の試料の調整を翌年度の前半期に実施することとする。
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