2014 Fiscal Year Research-status Report
ニホンジカにおける放射性物質の移行・蓄積過程の解明とその遺伝的変異への影響
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25517003
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
小金澤 正昭 宇都宮大学, 雑草と里山の科学教育研究センター, 教授 (90241851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 えみ子 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (20208341)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / 森林生態系 / ニホンジカ / 細胞遺伝学的影響 / ミトコンドリアDNA / ヘテロプラズミー |
Outline of Annual Research Achievements |
1、森林生態系における土壌‐植物(ササ)‐動物(シカ)系の構成要素間での放射性Csの定量 2014年2、3月に採取したシカの筋肉と各臓器類の全Cs濃度を測定した。また、2014年11月にササとススキの葉、並びに土壌(A層0-5㎝、A層5-10㎝)を採取し、Cs濃度を測定した。2015年2、3月に調査地で69頭のシカを捕獲し、試料を採取した。 2、シカおけるミトコンドリアDNAにおける遺伝的変異の解析 遺伝子変異の蓄積を評価するために、mtDNAのD-loop領域を解析し、各ハプロタイプの経年的変化について検討した。2011~14年に捕獲した88頭の筋肉からDNAを抽出し、PCRによりmtDNA D-loop領域約1100 bpを増幅し、これらの部分の塩基配列をシークエンスにより決定し、比較解析した。日光と足尾で捕獲したシカのハプロタイプ分布:A,B,C,D,Eとヘテロプラスミー(H)の6種類のハプロタイプに分類した。原発事故前の2011年足尾ではハプロタイプCとHの2種類が、事故後の2013年足尾ではハプロタイプB,C,D,Hの4種類が確認された。事故前の2011年日光ではハプロタイプA,C,E,Hの4種類が、事故後の2014年日光ではハプロタイプA,C,D,E,Hの5種類が確認された。2)ヘテロプラスミーの分類:1)よりヘテロプラスミー個体が複数発見されたことから、さらに4つに分類した。2004年からの過去のデータも加えて比較すると、新たに発見されたハプロタイプはBとDの2種類であることが示された。足尾と日光間の地域集団間に有意差は認められず、年度間で比較すると、事故前と事故後では、P値は0.05963±0.00695を示し(AMOVA)、危険値0.05では有意差は認められなかったが、ハプロタイプ多様度は事故前の2011年より2013、2014年で高い数値を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
森林生態系における土壌‐ササ‐シカ系の構成要素間での放射性セシウムの移行と蓄積状況については、定量的に多数の基礎データを収集することができた。また、昨年度の課題であった、土壌‐ササ系については、ほぼ課題を克服する資料を得ることができた。しかし、シカの体内の蓄積量は、経年的に低下しており、現在使用しているNaI(TI)シンチレーション式ガンマ検出器では検出限界(36Bq/kg)が高いため、より精度の高いゲルマニュウム半導体検出器を用いる必要がある。細胞遺伝学的影響については、本年度の分析で、新たな知見として、ヘテロプラスミーの分類:1)よりヘテロプラスミー個体が複数発見されたことから、さらに4つに分類した。2004年からの過去のデータも加えて比較すると、新たに発見されたハプロタイプはBとDの2種類であることが示された。足尾と日光間の地域集団間に有意差は認められず、年度間で比較すると、事故前と事故後では、P値は0.05963±0.00695を示し(AMOVA)、危険値0.05では有意差は認められなかったが、ハプロタイプ多様度は事故前の2011年より2013、2014年で高い数値を示した。また、新規のハプロタイプB及びDは事故前から確認されていたヘテロプラスミーの変異配列とそれぞれ一致したことから、ヘテロプラスミーから新規のハプロタイプへ移行していく過程が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
日光国立公園のニホンジカにおける放射性セシウム量および染色体分析の経年的調査では、2015年に捕獲されたシカの放射性セシウム量を調査する。また、細胞遺伝学的影響を調査するため、一部のサンプルについて微量全血培養法により血液細胞から常法に従い染色体標本を作製し、数的および構造異常の有無を解析する。 日光国立公園のニホンジカにおけるミトコンドリアDNAにおける遺伝的変異の解析では、昨年度に続き、2015年に栃木県日光国立公園で捕獲された野生のニホンジカにおけるmtDNAのD-loop領域を解析し、各ハプロタイプの経年的変化について検討する。2015年に日光国立公園の足尾および日光地域で捕獲された野生ニホンジカの筋肉からDNAを抽出し、名取(2009)らに従い、PCRによりmtDNA D-loop領域約1100 bpを増幅し、これらの部分の塩基配列を決定し、比較解析を行う。得られたデータはARLEQUIN(ver.3.5.1.3)を使用し遺伝的分散分析(AMOVA)を行う。また、ヘテロプラスミーはシークエンスにより得たクロマトグラムにより、2名以上で確認、分類する。 なお、昨年度の課題となっていた、巻狩り方式とシャープシューティグ方式の捕獲方法の違いによる個体の回収時間が血液サンプルの新鮮度に及ぼす影響については、捕獲頭数の規模による影響の方が大きく、方式の違いではないことが明らかとなった。このため、本年度についても従来の方式で試料の採取を行うこととした。
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Causes of Carryover |
本年度は、予定していた捕獲実施日が降雪による天候不良のために延期となり、実施日が予定の半分となったため、試料採取に係る謝金の支出が予定の半分となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
そこで、翌年分として請求した助成金とあわせて、前年度の資料調整を本年度の前半期に実施する。
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