2015 Fiscal Year Research-status Report
ミュージアム展示を科学的思考力育成の場に変える発問群による教育実践モデルの開発
Project/Area Number |
25560084
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
中山 迅 宮崎大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90237470)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥村 高明 聖徳大学, 児童学部, 教授 (80413904)
大石 和江 東京理科大学, 近代科学資料館, 学芸員 (80646430)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 科学コミュニケーション / ミュージアム展示 / 発問 / アートの扉理論 / 科学系博物館 / 自然系博物館 |
Outline of Annual Research Achievements |
宮崎県総合博物館をフィールドとする研究では,継続して取り組んでいるいる「発問カード」作成について,二つの取り組みについて整理して発表した。まず,チョウの展示と巨大なカブトムシのレプリカ展示と小学校第3学年理科の「昆虫の体のつくり」単元を結びつける発問カードを,来館者の小学生5名,中学生4名,高校生4名に,博物館で実施されている「クイズラリー」の一環として使用を依頼し,得られた回答分析をもとに効果を検証した。その過程で,理科教育を学ぶ大学院生が学芸員の見方や考え方を取り入れて改善を繰り返すことが有効であることが示唆された。次に,宮崎県総合博物館では,宮崎大学の教員養成コースの学生に,小中学校理科教科書に準拠した発問カードを,「主題」「対象」「文脈」といった「3つの扉」を意識して作成させた。この過程で,思考の深化が生まれ,展示資料から学習資源の価値が見いだされ,展示車の意図に迫りつつ,理科授業のコンセプトに迫る「問い」をつくることができることが示唆された。これらについて,日本理科教育学会で発表した。 東京理科梨大学近代科学資料館では,展示物のテープレコーダーなどを対象とした発問カードを作成し,電流の磁気作用や電磁陽動などに関する気づきを促す取り組みが行われた。この取り組みは,大半の参加者にとって難易度が高すぎたが,これをきっかけにリレー式計算機に興味をもった中学生が,自由研究でリレー式計算機を制作して自由研究のコンクールで表彰を受けるという事例につながったことが報告された。 研究プロジェクトで取り組んだ「3つの扉」に基づく発問カードの作成は,必ずしもうまくいくこと限らないが,理科授業の流れをつくる効果的な視点となることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鑑賞教育におけるテート美術館の学習モデルを用いて日本のアール・ブリュット作家の展覧会でギャラリートークを実施した(なかのZEROホール)。テーマ「大切なもの」を提示し、作品の色や形などの対象、作品の主題、作品の文脈などを交えながら実施したが、自分自身にある欲求や感覚、行為性を語り合うなどテート美術館の学習モデルの中核に位置する鑑賞者自身の自己との対話を促進することができた。 鳥取県東伯郡北栄町立北条小学校授業研究で行った鑑賞活動では、「形や色を取り出すこと(知識)」「話し合うこと(技能)」「考えること(思考・判断)」「よさや美しさを味わうこと(態度)」の四点について児童に自己評価を行い、これを統計的に分析した。結果的に、知識・技能と思考・判断の間に強い相関は見られず、思考・判断と態度には優位な相関が見られた。発言している子供だけを評価したり、表面的な対話の活性化を目指したりすることへの警鐘が得られた。 アートの扉理論をヒントに博物館展示を対象として学校理科授業で活用可能な発問を作る試みは,宮崎県総合博物館において大学生の教育において試行して実績をあげることかできた。東京理科大学近代科学資料館の展示を対象として中学校理科で活用可能な発問系列を作る試みは,中学生には難解すぎるという課題に直面したものの,これに触発された中学生が優れた自由研究に取り組んで表彰されるという成果につながりと,科学好きの若者に対する効果については示唆された。一連の取り組みについては,日本科学教育学会年会,日本サイエンスコミュニケーション協会年会で発表するとともに,サイエンスアゴラでのワークショップでも発表して多くの人に共有してもらうことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定された3年間の期間で,美術館鑑賞教育の「アートの扉」理論を,自然系・科学系博物館の展示を学校教育に利用する発問づくりに生かすことが可能であるという示唆を得ることはできた。しかし,宮崎県総合博物館の自然史系の展示のようなものでは,小学校や中学校の授業で活用可能な発問をつくりやすい一方で,東京理科大学近代科学資料館のような専門性の高い展示物をもとに中学生向きの発問の難易度を合わせることについては,十分に成功したとは言えないことが課題として残っている。 今後は,問いの「文脈」について,純粋に自然科学の文脈に留まらず,ソシオ・サイエンティフィックイシューの文脈を意識するなど可能性を模索して,これからの学校教育のカリキュラム改革の方向性を意識した取り組みを試みたい。
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Causes of Carryover |
宮崎大学の改組に伴い,新学部の設置と所属学部の組織換えがあり,それに伴って所属講座で使用する実験室を含むすべてについて,同一の建物内ではあるが別の会の別の場所に新規の工事を伴う引っ越しがあった。そのため,12月以降から年度末にかけて予定していた最終的なとりまとめや成果発表等を実施することが困難になり,これを次年度に繰り越すことになったため,次年度に予算を繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
3年間に実施した研究全体をあらためてとりまとめる。そのための資料整理,研究打合せ,成果発表を行うことに使用する。
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Research Products
(13 results)