2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25560128
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉澤 剛 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10526677)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐野 亘 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (20310609)
江間 有沙 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (30633680)
標葉 隆馬 総合研究大学院大学, その他の研究科, 助教 (50611274)
見上 公一 総合研究大学院大学, 学内共同利用施設等, 助教 (60589836)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | やりくり / 当事者 / 世間 / 権力 |
Research Abstract |
本研究は、生命や生活における選択や決定、知識や行動について、「綺麗にいかないが、なんとかなっている」状態を「ゆるやか」という言葉で表現し、不確実性や曖昧さ、抜け道を許す形での、生に関する社会と自己の動的ガバナンス論を提唱することを目的とする。25年度は、科学技術社会論、公共政策、文化人類学など分野横断的に「生」や「ゆるやかさ」、「ガバナンス」についての理論的考察を深めた。遺伝子組換え作物や生活習慣病予防、予防接種、情報セキュリティ、いじめ、分類など生命・生活に関わる事例を中心に、研究メンバー各自の専門と知見に基づいて「ゆるやかなガバナンス」の概念について整理したものを全員で議論し、精緻化した。 予防接種の事例においては、幅広い社会のアクターや市民のふだんの何気ない行動を探るための調査手法を検討したほか、生活習慣病予防に関しては実際にグループインタビューやワークショップを企画・実施し、参加者が日常抱える生活習慣上のジレンマについての発言や態度から質的分析を行った。さらに年度末には外部研究者を招いたワークショップを開催し、環境保全と公衆衛生、アスベスト健康被害、受動喫煙、規範の社会心理学などのテーマで議論や意見交換を行った。 これらの理論的考察や事例研究を通じ、自己決定でも社会決定でもないゆるやかな決定に際して「みんな」や「世間」、「空気」といった場が構成する見えざる中間的媒体とそれらに「なじむ」時間という時空間的に漠然とした広がりの重要性を確認した。また、行為や過程ばかりではなく環境としてのガバナンスへの着目と、学術研究ないし社会実践における「ゆるやかなガバナンス」の位置づけの必要性が明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「ゆるやかなガバナンス」の概念についての整理、精緻化は計画通り進捗している。特に対象としての曖昧さとガバナンスとしての曖昧さ、意識化されていない領域や活動、偶然性の交錯が「ゆるやか」に含まれることを明らかにするとともに、かたいガバナンスとの関係性、ゆるやかなガバナンスを主張することの意義について議論を行っている。その結果、そもそもの社会決定や自己決定のあり方に曖昧さが見られたため、当初想定していた社会決定や自己決定の境界線がシフトするという考え方やアプローチは積極的に採用していない。 また、メンバー各自の行う古典的事例や日常的事例の対象の検討、および実際の分析結果の検討も全員で進めている。日常的な事例へのアプローチの仕方、方法論、予想される成果についても議論を行っているが、「ゆるやかなガバナンス」の理論的フレームワークの仮設については26年度初頭に実施することとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
25年度に取り上げた事例研究については引き続き進めていくが、次の二つの方向性を明確に意識する。一つは規範的研究として、社会的課題に取り組み、社会に対して問題提起するような事例(遺伝子組換え作物など)を取り上げ、実際に社会の他のアクターに対して研究の内容や方向性を問う。もう一つは記述的研究として、生活の場面でゆるやかなガバナンスが成り立っている事例(生活習慣病予防など)を取り上げ、既往の研究や実践で見過ごされてきた「ゆるやかさ」の意義を評価する。 これまでは自己の選択や決定を方向づけている状況性やアーキテクチャについて焦点を当ててきたが、こうした外部環境を個人がどのように内的に処理し、実際の認識や行動に結びつけているかという点についての分析が不十分であった。そこで26年度は、日常的な事例分析の一環として、社会心理学を応用した簡単な実験ないしアンケート、グループインタビューを新たに実施する予定である。 最終的な成果を取りまとめるべく、年度当初に「ゆるやかなガバナンス」の理論的フレームワークを仮設的に文章化する。これに基づいて各メンバーが事例・概念分析の記述を加え、理論的フレームワークにフィードバック、洗練化させていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
古典的事例の実証分析として、グループインタビュー、議事録やメディア等の量的・質的言説分析、メディア報道を利用して学生を被検者としたロールプレイ調査、マーケティング手法を応用した情報選択・購入行動の質問票調査を検討したが、本研究の鍵となる「ゆるやかなガバナンス」の大まかな概念化と、構成要素の抽出、ターゲットとする事例、新たな方法論の企画と開発に時間が掛かったため、25年度は新たな実証分析手法を導入することはできなかった。 26年度は当初予定していたグループインタビューやロールプレイ調査、質問票調査と併せ、25年度の研究成果として社会心理学を応用した簡単な実験も新たな検討対象として加わったので、年度前半に具体的な調査分析の設計を行い、中盤から後半にかけて、これらの調査手法を同じテーマもしくは異なるテーマで複数並行して実施する。
|
Research Products
(3 results)