2013 Fiscal Year Research-status Report
大学生におけるメンタルヘルスと発達障害傾向についての大規模調査と継続的支援の試み
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25560352
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松下 智子 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (40618071)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一宮 厚 九州大学, 基幹教育院, 教授 (90176305)
福盛 英明 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (40304844)
熊谷 秋三 九州大学, 基幹教育院, 教授 (80145193)
眞崎 義憲 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (10437775)
高柳 茂美 九州大学, 基幹教育院, 講師 (80216796)
林 直亨 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (80273720)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | メンタルヘルス / 大学生 / 発達障害傾向 / 質問紙 / 新入生支援 |
Research Abstract |
1.具体的内容 発達的修学困難チェックシートの妥当性の横断的な検証では、質問紙調査を実施し、現在、データ解析を続けている。発達的修学困難チェックシートは、因子分析の結果、「友人関係を築くことの困難さ」と「修学上の不器用さ」の2つの因子からなることが見出された。また、高機能自閉症やADHDを評定する質問紙の得点と中程度の相関が見られたことから、当チェックシートによって発達障害傾向を有する学生把握の可能性が示唆された。このことから、不安や抑うつの度合い、既往歴、相談希望などの呼び出し基準だけでなく今後も当チェックシートを用いて発達障害傾向による大学生活での困難が予想される学生を把握し、呼び出し面接につなげる必要があると思われた。 しかし、質問紙による把握の限界も見出された。入学までに発達障害の診断を受けた学生の当チェックシートの合計得点の平均は、他の学生に比べて有意に高かったものの、合計得点が平均値以下の者もいることも明らかとなった。つまり、当チェックシートの合計得点だけでは把握できない発達障害傾向を有する学生がいると考えられる。また、新入生の呼び出し面接時の発達障害傾向の印象評定との関連でも、当チェックシートの合計得点は発達障害傾向の有無により有意な差が見られたものの、発達障害傾向が強い群と傾向あり群との間には差が見られなかった。これらのことから、発達障害傾向を有する学生への早期支援を行うためには、当チェックシートだけでなく、他の質問紙項目からの呼び出し面接、低年次の必須科目や実技科目における適応状況などの情報など、様々な側面から支援体制を構築していく際には不可欠であると言える。 2.意義・重要性 大学生における発達障害傾向の大規模な調査は少なく、基礎的なデータの蓄積自体にも意義がある。質問紙の限界も踏まえながら、大学生への早期支援について検討を行っていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンケート調査や新入生の呼び出し面接の実施は予定通り達成しており、おおむね順調に進んでいると言える。平成25年度は、新入生全員2687名に対し、入学前アンケート調査の一つとして発達的修学困難チェックシートを配布し、回答が得られた2632 名(男子1888名,女子744名)のデータについて解析した。また、新入生面接に来談した156名には、既存の発達障害のスクリーニングに使われる質問紙に回答を求め、さらに、これら質問紙の内容を知らない状態で面接者が半構造化面接を行い、発達障害傾向について印象評定を行った。その結果から、学生を「発達障害傾向なし」、「発達障害傾向あり」、「発達障害傾向強い」の3群に分類し、発達的修学困難チェックシートの妥当性の検証を行った。その結果については、分析を終了し、その内容を論文化した。発達的修学困難チェックシートとメンタルヘルスの関連についての分析は、少しずつ行ってきているが、学会発表や論文化に至っていないため、今後さらにまとめていく作業が必要である。 また、発達障害傾向やメンタルヘルスの悪化が認められる学生に対する継続的支援の試みとして、学生へのグループセラピー活動を試験的に実施した。そこでは、個人面接では十分に満たすことができない学生のニーズ、グループセラピー活動が果たす役割が明らかとなった。この試みについても、その成果について学会発表を行い、論文化していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、平成25年度の結果をふまえて質問紙を改良し、平成26年度入学生に対する調査を同様に行う(調査は入学時と入学後2か月後の2回)。これらの調査結果を通じて、大学入学後の適応を予測できる簡便なチェックシート(メンタルヘルスと発達障害傾向を把握できる質問紙)を完成させていく。この成果は、8月以降、学会発表や研修会などを通じて公表する。 また、平成25年度に発達的修学困難チェックシートで高得点であった者に対し、再度呼び出し面接を行い、1年間の大学生活への適応状況を確認する。修学状況の問題(低単位取得、留年の有無)についても、学生の了承が得られれば、同時に見ていく予定にしている。その際、大学生活における学生の支援ニーズを把握することも目的とする。この追跡調査によって、発達的修学困難チェックシートが高得点の人が、大学生活で実際に必要とする支援について明らかにすることを目指す。 その他、学生への継続的な支援の試みとして、グループセラピー活動も継続し、その有効性を検証する。H25年度実施分については、データ分析を行い、学会で発表する。 最終的には、発達障害傾向やメンタルヘルスの悪化が見られる学生に対する大学での支援体制について、質問紙調査からの呼び出し面接、呼び出し面接からの継続的相談へのつなぎ、相談に来ている学生に対する個別面接とグループセラピー活動の実施、という一連の包括的な支援を考えていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初はH25年度内に、当該結果についての学会発表を予定していたが、予定が合わず行えなかったため、その分の旅費やポスター作製代などが不必要となった。また、前年度に購入していた質問紙の余りがあったために、新たに質問紙を購入する必要がなかったことや、データが十分そろうまではデータ整理やデータ分析のためのスタッフを雇用しなかったことなども影響している。 H26年度は、H25年度に行うことができなかったデータ整理とデータ分析を行うため、テクニカルスタッフを雇用する。また、H25年度に発達的修学困難チェックシートで高得点であった者に対する追跡調査や、グループセラピー活動の試みを継続するため、技術補佐員と講師を雇用する。その他、年度内には結果をまとめて、学会発表を予定しているため、その分の旅費も必要となる。
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