2013 Fiscal Year Research-status Report
東マレーシア・サバ州における原住民裁判所と法文化の研究
Project/Area Number |
25580182
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
宮本 勝 中央大学, 総合政策学部, 教授 (40110085)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | マレーシア / サバ州 / 原住民裁判所 / 紛争処理 / 固有法 / 法文化 / イスラーム教徒 |
Research Abstract |
平成25年4月から7月まで、マレーシア・サバ州の原住民裁判所の設立と運営、およびサバ州のフィリピン系イスラーム教徒の法文化に関する文献研資料を検討し、サバ州での現地調査の準備を行った。 8月9日にコタキナバルに到着し、9月14日までサバ州で調査を実施した。コタキナバルに計2週間滞在し、植民統治期における司法制度、およびイスラーム教徒が人口の大半を占めるサバ州南東部のスンポルナと周辺地域の歴史資料をサバ博物館図書室で検索・収集した。それと並行して、原住民裁判所より高等法院に上訴された裁判の記録と巡回裁判所の裁判記録を高等法院資料室で収集した。高等法院で入手した裁判記録はサバ州の法文化を考察するうえで貴重な資料である。 スンポルナには計3週間滞在し、その間に当地の原住民裁判所を訪れた。サバ州西部の原住民裁判所には大量の裁判記録が保管されているが、スンポルナの原住民裁判所では、裁判長と裁判人が紛争当事者の主張を聞いたうえでイスラーム法裁判所か民事裁判所、あるいは警察で問題を解決してもらうように忠告するのみで、その記録は皆無であることが判明した。そこで、調査対象をフィリピン系バジャウ人が居住するスンポルナの漁村に絞り、豊かな知識と経験を持つ年長者に面接し、バジャウ固有法(慣習法)に関する聞き書きを行った。スンポルナ滞在後、南方に位置するタワウの原住民裁判所の裁判長に面会したところ、そこではイスラーム教徒間の紛争が処理され、若干の裁判記録が保管されていることがわかり、平成26年8月に調査を実施することが承認された。 9月15日にマニラに移動し、フィリピン・スルー諸島のバジャウ人に関する文献資料の検索・収集を行った。 9月22日に帰国し、その後、上記の調査で得た文献資料と調査資料を整理し、2014年度の調査に備えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の遅れは、主たる調査地であるスンポルナにおける原住民裁判所がその機能を十分に果たしていないという事実が判明したことによる。 これまでに私はサバ州西部のプナンパンとトゥアランで現地調査を実施してきた。それらの地域(行政区)の住民の大半がキリスト教徒に改宗しているが、伝統的なアニミズム的世界観が彼らの固有法の基礎をなすことを確認している。サバの原住民裁判所では、1995年に制定された「原住民裁判所規則集 1995」にもとづいて個々の紛争をめぐる審理・判決がなされる。この「規則集」の内容を分析すると、その根底にサバ独自のアニミズム的世界観が潜んでいることがわかる。「規則集」は上記の地域の固有法と同じ性格を有しているため、両者の間に顕著な衝突は見られない。これらの原住民裁判所では住民間の紛争が頻繁に処理され、そこに大量の裁判記録が保管されている。それではイスラーム教徒が人口の大半を占める地域の原住民裁判所ではどのように「規則集」が用いられ、紛争が処理されるのか、という疑問が本研究の発端であった。 サバ州でイスラーム教徒の人口比が最も高い地域はスンポルナである。この地域の事情に詳しいサバ博物館の研究員(私の研究協力者)の誘いを受けて、スンポルナの原住民裁判所における紛争処理と住民(バジャウ人)の固有法に関する調査を企画してみた。しかし、実際にスンポルナの原住民裁判所を訪れてみると、「研究実績の概要」で述べたように、それが原住民裁判所としての機能を果たしておらず、裁判長と10名の裁判人が扱った紛争に関する記録が皆無であることがわかった。 スンポルナでは、バジャウ人が住む漁村における固有法法文化に関する研究は順調に進んだが、肝心の原住民裁判所での調査が無意味で不可能になってしまったことが本研究の計画が遅れた最大の理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年8月~9月にサバ調査を再度実施する。スンポルナにおけるバジャウ人の固有法に関する短期(1週間)の調査を続行し、それが済み次第、バジャウ人のほかにスルック人やティドン人、ブギス人などのイスラーム教徒が多く住むタワウに移動する。タワウの原住民裁判所では、すでに裁判長から承諾を得ているため、円滑な調査実施が可能である。ただし、この裁判所で扱われた紛争事例は数が限られ、保管されている裁判記録が本研究の課題を追究するうえで不十分であることが判明したら、直ちにサバ州西部に移動し、そこで調査を実施する。 サバ州西部には南東部のフィリピン系バジャウ人とは系統を異にするバジャウ人のほかにイスラーム教徒の諸民族が多く住む地域があり、そこでは原住民裁判所での紛争処理が比較的頻繁に行われ、大量の裁判記録が保管されている。具体的には、サバ博物館の協力を得て、コタキナバルの南方のパパール、クアラ・ペニュ、あるいはコタキナバルの北方のコタ・ベルッドのいずれかでインテンシヴな調査を実施し、本研究を推進する方策を立てている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外調査を実施するうえで、旅費、人件費・謝金が必要であるため。 平成26年7月29日より9月21日まで、マレーシア・サバ州とフィリピン・マニラで調査を実施する。計855,095円のうち、人件費・謝金(外国での謝礼金)として150,000円を使用し、その他を旅費(うち航空運賃は約84,000円)として使用する計画である。
|