2014 Fiscal Year Annual Research Report
東マレーシア・サバ州における原住民裁判所と法文化の研究
Project/Area Number |
25580182
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
宮本 勝 中央大学, 総合政策学部, 教授 (40110085)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 法人類学 / マレーシア / サバ / 原住民裁判所 / 紛争処理 / 固有法 / 法文化 / イスラーム教徒 |
Outline of Annual Research Achievements |
東マレーシアのサバ(旧北ボルネオ)では、固有法(慣習法)と外来宗教法(イスラーム法やキリスト教会法)と近代国家法が併存する多元的法体制が形成され、19世紀末以降イギリス支配のもとで固有法を取り入れた原住民裁判所(Native Court)が設置された。本研究は、イスラーム教徒に焦点を当てて原住民裁判所と村社会における紛争処理過程の調査をつうじてサバの法文化の特質を明らかにすることを目的として実施した。 サバの非イスラーム教徒の村と同様に、原住民裁判所でも紛争処理のために科料が家畜で支払われていた。しかし最近は現金による支払いが普通になっている。そのためマレーシアの法学者の間では、サバの原住民裁判所はサバの原住民を固有法理念から引き離し、近代国家法理念に向かわせる役割を果たしてきたという見解が通説になっている。しかし、この通説は原住民裁判所の重要な側面を見落としている。 1995年にサバ州政府は、侵犯行為と科料の内容を定めた「原住民裁判所規則集1995」を制定した。この規則集にはサバの原住民が共有するアニミズム信仰に関連する用語が散りばめられている。この規則集はアニミズム的性格を保持しているがゆえに、アニミズム的世界観を基礎とする固有法が国家法や外来宗教法の導入によって消滅に向かうことに歯止めをかける役割を果たしてきた、と解釈できる。今回の調査から、この解釈はムスリム地域にも適用可能であるということが判明した。つまり、原住民裁判所の規則集制定という形でサバ州政府が立案した法政策は原住諸民族の帰属意識を「原住のサバ人(Native Sabahan)」に収斂させるための文化政策であったと解釈できる。 この見解はマレーシアの法学者たちの通説をくつがえすものであり、本研究は多元的法体制論を主要課題とする今日の法人類学の研究に貢献するという学術的意義を持つ。
|