2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25590070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
武藤 滋夫 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (50126330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山室 恭子 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (00158239)
イ チャンミン 東京工業大学, 社会理工学研究科, 助教 (50632436)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 江戸商人 / 株譲渡 / 番組編成 |
Research Abstract |
本研究は、江戸の商人の業態について、各商人の個票データをデータベース化して計量的に分析するという、従来試みられなかった新しい手法で斬り込み、三井という大商人にのみ依拠して構築されてきた通説を覆すことを企図して立案したものである。 計画初年度の本年度は、分析の基盤となるデータベースを構築し、それにさまざまな観点から分析を加えることに注力した。具体的には『江戸商家・商人名データ総覧』をもとに約4000名の江戸商人について業種・営業期間・店舗立地等の要件を網羅した個票データを作成し、それをもとに分析をおこなった。 業種ごとの営業権(「株」と呼ばれる)の流動性、同業者同士の商圏分割(「番組」と呼ばれる)の様相といった独自の商慣行に着目し、さらに店舗立地や開業時期、営業規模なども視野に入れて分析を重ねた結果、江戸商人は以下のように、全域型と都心型という2つの類型に大きく分けられるという見通しを得た。 全域型:株の流動性が激しく存続期間が短い。営業規模は零細で、地域ごとにブロック割りして江戸全域をカバーする番組編成をおこなっている。1740年頃から開業。米や炭薪といった必需品を扱い江戸商人全体の8割と大多数がこのタイプに属する。 都心型:株が固定的で存続期間が長く、営業規模は大きい。店舗は日本橋付近の繁華街に集中。1800年頃から開業。薬種問屋・呉服問屋など専門性の高い奢侈品を扱う業種が中心で、江戸商人全体の1割程度が属する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
特定の商人を深掘りするのではなく、広く浅く多数の商人を網羅した個票データベースを作成するという新しい切り口が予想以上に功を奏した。 たとえば店舗存続期間。全体平均は15.7年、中央値はさらに下がって13年程度である。せいぜい10数年。江戸の各店舗の平均寿命はこんなにも短いことが初めて判明した。代々暖簾を受け継ぐといったイメージからはほど遠く、それこそ一代ぶんにも満たない短さで交替しているのである。 あるいは株の移動事由。個々の商人が「株」と呼ばれる営業権をどう入手し、どう継承したかが判明する1567件について集計すると、親から子へといった封建社会に一般的な血縁相続は1割に満たず、ほぼ半分は金銭を媒介とした他人への譲渡が占め、あとは新規参入と退出となる。 そうした新知見がつぎつぎと見出されており、それらを統合することによって、当初計画以上に大きな成果が上がることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
短期利得を追求して頻繁に営業権の売買を繰り返すビジネスモデルという今までになかった商人像を得ることができたので、データベースをより充実させた上で、統計ソフトを用いた計量分析にかけ、業種・住所・存続期間・継承事由・持ち家か借家か・専業か兼業かなど、さまざまな変数が相互にどう相関するかを緻密に解析し、買い手vs商人というゲーム理論モデルをも組み込んで、なぜこのような営業スタイルとなったのか、その原因を解明する。 その際、公儀の商業政策への着目も重要な論点となる。自由か規制か。新規参入を奨励して競争による活性化をはかるのか、それとも、既得権を保証して秩序を維持し安定をはかるのか、公儀の政策は極端から極端へと振れる。 そのめまぐるしい推移のうち、特に『諸問屋再興調』全15冊という手厚い資料が残されている嘉永4年(1851)の問屋再興期における新旧の商人たちの動きにフォーカスし、公儀と商人との関係を詳細にあとづけることで、当初の研究目的を達成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度の末に人事異動があり、研究分担者の李が福岡県立大学へと所属大学を変わったため、新しい研究環境のもとで、より効率的に研究を進めるために、30,000円ほどの次年度使用額が生じた。 次年度使用額の30,000円は、東京ー福岡間で、大量のデータを円滑にやりとりして共同研究を進めるためのデータ処理ソフト調達に充当する。
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