2014 Fiscal Year Research-status Report
内部競争の導入による地域伝統芸能の継承・発展のマーケティングに関する研究
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25590094
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
藤村 和宏 香川大学, 経済学部, 教授 (60229036)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 地域伝統芸能 / マーケティング |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、博多祇園山笠、おわらの風の盆、長崎くんち、および八戸えんぶりなどの地域伝統芸能を対象として、それらの伝統芸能の関係者および地方自治体の関連部署にヒアリング調査を行うとともに、観察調査を行った。 いずれの地域伝統芸能においても、それらを行う団体の間では協調が行われるだけでなく、競争が行われていることが確認された。また、“変容の許容性”が比較的高い長崎くんちにおいては、他の団体のパフォーマンスやそれに対する観客の反応を観察することにより、より観客の反応を高める方向にパフォーマンス内容が変更されていることが明らかになった。一方で、パフォーマンスは大きく3つのタイプに分けることができ、すべてのタイプのパフォーマンスを一律に評価することができる基準が存在しないために、団体間の競争は弱められていることも明らかになった。さらに、観客の観察眼が低下し、高度な技術や型を適切に評価することができなくなっており、その結果として動きの激しパフォーマンスのほうを高く評価する傾向があることから、各団体は“型の高度化”よりも、観客にとって分かりやすい“パフォーマンスの激しさ”を求める傾向があることも明らかになった。 また、おわらの風の盆では、“型の高度化”を通じてパフォーマンスの高度化が行われているが、観客はそのパフォーマンスよりも、踊り手の属性や街並みと一体化した雰囲気を高く評価する傾向があることが、彼らの会話から窺われた。 このような結果から、内部競争を促す仕組みとしての“変容の許容性”と“型の高度化”が適切に機能するかどうかは、観客側の評価能力(鑑賞眼)にも依存しており、顧客の育成を促す仕組みも同時に構築する必要性があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、地域伝統芸能の継承・発展には協調だけでなく内部競争も必要であるあろいう問題意識から、内部競争を促す仕組みとしての“変容の許容性”と“型の高度化”という概念を導入したが、この2つの概念はともに地域伝統芸能の継承・発展に貢献していること、さらに、それは観光客を引きつける価値物の魅力をより高める方向に作用していることも明らかになったからである。 また、地域伝統芸能に対する観客の関心の程度によって、“変容の許容性”と“型の高度化”が競争、さらには魅力に及ぼす影響は異なるという仮説を持っていたが、観客の評価能力によってそれらは異なることが明らかになったからである。 ただし、他国の地域伝統芸能を対象としたヒアリング調査と観察調査は実施できなかった。その理由は、日本の地域伝統芸能と同様に型を重視し、踊り手が同じような所作をするようなものが発見できなからである。しかしこのことは逆に、“変容の許容性”と“型の高度化”は日本の地域伝統芸能における内部競争を促すことのみに関わる概念であり、他国の地域伝統芸能には他の仕組みが必要とされることが明らかになったと言えるであろう。したがって、日本と他国における内部競争を促す要因間の違いに関する考察も重要であることが明らかになったことから、研究をより発展させる方向性を発見できたとも考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
内部競争を促す仕組みとしての“変容の許容性”と“型の高度化”という概念は日本の地域伝統芸能に独特な文化要因であることが窺われたことから、今後も日本の地域伝統芸能を対象としてヒアリング調査と観察調査を実施することにより、この2つの仕組みを有効に働かせるためのマーケティングの方向性について考察を行っていきたい。一方で、他国の地域伝統芸能における内部競争を促す仕組みについても考察することにより、日本と他国における仕組みの違い、およびそれを生み出している要因について検討したい。
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Causes of Carryover |
他国の地域伝統芸能を対象としたヒアリング調査と観察調査の実施も予定していたが、日本の地域伝統芸能と同様に型を重視し、踊り手が同じような所作をするようなものが発見できなかったことから、他国での調査を実施できなかったからである。 また、これまでは地域伝統芸能が開催される時期に現地を訪問し、観察調査とヒアリング調査を同時に行ってきたが、地域伝統芸能(特に祭り)は開催時期が一時期に集中するために、このような方法では多くの地域伝統芸能(祭り)を調査することができなかったからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内の地域伝統芸能の観察調査とヒアリング調査については時期を分けて行い、できるだけ多くの地域伝統芸能の調査を行う。また、これまでに調査を実施した地域伝統芸能についても再度ヒアリング調査を行い、構築した仮説のモデルの妥当性について検討する予定である。 一方で、他国の地域伝統芸能についても調査を行い、日本の地域伝統芸能とは異なると考えられる内部競争促進要因について検討していく予定である。
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