2013 Fiscal Year Research-status Report
痛み情報の化学計測とin vivo蛍光イメージング
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25620115
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中野 幸二 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10180324)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | バニロイド / 受容体 / 電位チャネル / 合成ペプチド / 蛍光共鳴エネルギー移動 / カプサイシン / バイオセンサー / 自己組織化膜 |
Research Abstract |
末梢感覚神経に特異的に発現する温度受容体が持つ一過性受容体電位チャネルタンパク質のうち、バニロイド受容性サブタイプ(TRPV1)に着目し、その細胞膜結合部位のうち3番目と4番目のヘリックスが形成する受容器部位を抜き出して化学合成し、バニラ香の成分であるバニリン、あるいは辛み成分であるカプサイシンに対するホスト分子として利用することを試みた。ペプチドの分子設計にあたっては、トランスデューサーやナノ粒子などへの固定化のために、ヒスチジン(H)6量体も同時に組み込んだ:SEILFFVQS-HHHHHH-SLAMGWTNML(S3HS4)。均一系での円二色性スペクトル測定により、S3HS4は期待されるヘリックス構造をとることが確認できた。さらに、トリプトファン残基由来の強い蛍光を示すだけでなく、バニリンが共存すると蛍光強度が著しく低下することもわかった。これは、S3HS4とバニリンが会合することで起こる蛍光共鳴エネルギー移動によるものと考えられた。今後蛍光センシングへの応用が期待できる。次に、His-tag法と組み合わせてS3HS4を固定化することを試み、赤外吸収スペクトル測定、エリプソメトリーによる膜厚測定、さらには原子間力顕微鏡による分子イメージングにより表面のキャラクタリゼーションを行った。その結果、S3HS4は、金基板表面で自己組織化膜を形成することが明らかとなった。このような知見に基づき、水晶振動子重みセンサを用いた微小重量測定によりカプサイシンとの相互作用を検討したところ、10-4 Mレベルのカプサイシンと可逆的に結合することが分かった。カプサイシンは代表的な辛み物質であり、辛み物質応答は痛覚(痛み)が担っている。本研究の成果は、化学的な痛み物質センサーを実現していく上で重要な知見であり、極めて意義深いものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、1)TRPV1のへリックスバンドル結合モチーフの化学合成、2)蛍光スペクトル測定による結合平衡解析、および3)水晶振動子センサ、表面プラズモン共鳴センサを用いた結合挙動解析を計画した。このうち1)については、所定のペプチド(S3HS4)の合成に成功しており、また所定の性質を持つことも確認している。次に2)については、S3HS4はバニリン応答性を示すことを明らかにしている。ただしカプサイシンについては、親化合物であるバニリンとは吸収スペクトルが大きき異なることが分かり、今後の検討を残している。最後に3)については、金基板表面でS3HS4が自己組織化するという想定外の結果を得た。これは、ヘリックスペプチドの自己組織化単分子膜形成という従来にない新たな超分子組織体の研究を拓くものであり、大変興味深いものと考えている。また、水晶振動子センサを用いて微小重量測定を行ったところ、カプサイシンの添加によりS3HS4単分子膜の重量が増加し、S3HS4がカプサイシンに対するホスト分子として機能することが分かった。 以上のように、当初の研究計画をほぼ達成したことに加えて新たな超分子組織体を見出すことに成功しており、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、1)培養細胞を用いたin vivoイメージング、および2)タンパク質発現系への組込みを計画している。またS3HS4のゲスト分子としてはバニリン、およびカプサイシンが対象である。このうち前者は想定した実験が可能であるが、後者はバニリンとは吸収スペクトルが大きく異なっておりそのままでは実験が出来ない。そこで、平成25年度の研究として、トリプトファンをダンシル基修飾リシンに置換することで蛍光特性の改善を試み、その結果、所定の新規ペプチドを得ることに成功した。今後は、膜融合性ペプチドであるアルギニン8重合体(R8)とのコンジュゲート化を利用して受容体ペプチドモチーフをRAW264.7(マウスの単球性白血病由来の細胞)に取り込ませることに着手する。蛍光顕微鏡観察下にてバニリンやカプサイシン投与に伴う蛍光イメージの変化を観察することを試みる。また、バニロイド化合物以外にも、プロトン(酸)、熱など他の侵害刺激を用いた場合の蛍光イメージの変化等も併せて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請者らは、以前からFmoc法を用いたペプチド固相合成反応を利用しており、原料については一定のストックがあった。また検討したペプチド化合物が想定外に効率良く合成出来たこともあり、細かな条件検討や繰り返し合成も必要なかった。一方、既設の水晶振動子バイオセンシングシステムに組み合わせる測定チャンバーを当該予算で購入できたことで測定の精度が向上し、この点も高額な消耗品の使用が少なくて済んだ。 平成26年度には培養細胞を使った蛍光イメージングやタンパク質発現系への組込みを計画している。実験には高額な生体成分や細胞の購入などかなりの支出が見込まれることから、当初より研究費が不足することをが懸念としてあった。そこで、本年度に生じた次年度使用額を充当したところ、申請書に記載した消耗品類だけでなく、本来の実験に必要な細胞や細胞培養のための試薬等の購入が可能になることが分かった。 平成26年度交付額(直接経費1,100千円)に次年度使用額(1,150千円)を加えた支出計画を以下に示した。 ペプチド合成用試薬及び消耗品 200千円(申請額)、遺伝子発現用キット及び消耗品 900千円(申請額より増額)、分析用試薬類 100千円(申請額)、顕微鏡用消耗品 100千円(申請額)、細胞および細胞培養試薬類 950千円(新規に追加額)
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