2013 Fiscal Year Research-status Report
小胞体ストレス応答とゴルジ体ストレス応答のピコバイオロジー的解析
Project/Area Number |
25650070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
吉田 秀郎 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60378528)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 小胞体 / ゴルジ体 / ストレス応答 / 構造生物学 / 結晶構造解析 |
Research Abstract |
小胞体ストレス応答とゴルジ体ストレス応答は、小胞体やゴルジ体の機能を細胞の需要に応じて増強する機構であり、その分子機構の解明は細胞生物学の根本的命題の一つである。研究代表者は、これまで哺乳類の小胞体ストレス応答やゴルジ体ストレス応答の分子機構を細胞生物学的に研究してきた。本研究課題では、これまでに同定した小胞体ストレス応答・ゴルジ体ストレス応答の制御因子を構造生物学的に解析することによって、ピコメートルレベルでの分子機構を解明することを目的としている。 構造解析の対象として、小胞体ストレス応答のセンサー分子であるpATF6(P)と転写制御因子であるpXBP1(U)を選んだ。pATF6(P)は小胞体膜上に存在する膜貫通型タンパク質であり、内腔側の領域で小胞体ストレスを感知すると考えられているが、ストレス感知の分子機構はまだ解明されていない。そこで、pATF6(P)の内腔側領域を大腸菌や昆虫細胞で発現させることを試みた。低温発現型の発現ベクターやコドンバイアスを修正した大腸菌株を使用したが、発現量が非常に低く、現在発現条件を検討しているところである。 pXBP1(U)は活性型転写因子pXBP1(S)の分解を促進したり、XBP1(U) mRNAを小胞体膜に結合したり、また翻訳中にリボソームトンネルと相互作用することでpXBP1(U)の翻訳速度を減速していることが知られているが、その構造的分子基盤については全く不明である。そこで、低温発現型の発現ベクターやコドンバイアスを修正した大腸菌株を使用して大量発現を試みたところ、可溶性の状態で大量に発現することができた。結晶化の条件検討として塩溶液への溶解性を調べたところ、高濃度のNaCl溶液では沈殿してくることを見出した。現在、結晶化スクリーニングプレートを用いて、結晶化の条件を更に検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
pATF6(P)やpXBP1(U)の構造解析はこれまでも多くの研究室で試みられてきたが、いずれも成功してこなかった。これらのタンパク質は大腸菌に対して毒性を示し、37℃で培養すると大腸菌が死滅する。このように、pATF6(P)やpXBP1(U)の構造解析は極めて困難であるが、細胞生物学的にきわめて重要な研究対象である。大量発現や結晶化が困難であることはあらかじめ覚悟していたので、可溶性のpXBP1(U)の大量発現に成功したことは、むしろ驚きであった。分子シャペロンであるTrigger factorをpXBP1(U)に結合し、低温で発現させ、更にHistidine tagで精製したこと、コドンバイアスを修正した大腸菌を用いたことのみならず、発現誘導のタイミングを詳細に検討したことが成功の理由であった。pXBP1(U)に関しては、塩濃度などの諸条件を検討することで、結晶化への条件検討も順調に進んでいる。pXBP1(U)は極めて正に荷電していることから、高塩濃度で析出してくることはある程度予想されたが、結晶化条件の検討に極めて有効な情報であると考えている。 pATF6(P)の内腔側領域に関しては、たいへんな困難が予想されたので、大腸菌だけでなく、昆虫細胞でも検討を行った。いずれの系でも今のところわずかな発現しか得られていないが、発現系の基盤は整えることができたので、今後諸条件を検討することで、少しずつ発現量を増やしていくことができるものと考えている。 どうしても大量発現できない場合であっても、上記の様に少量の発現を得ることができたことで、下記に述べるX線自由電子レーザーを用いた単分子解析への道が開けたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
pXBP1(U)に関しては、可溶性状態での大量発現系を確立することができたので、結晶化条件の網羅的スクリーニングを行う計画である。スクリーニング条件の検討には、本研究科の水島恒裕教授に指導を仰ぐとともに、本研究科の樋口芳樹教授が有する結晶化条件自動検討装置を借用する計画である。また、pXBP1(U)は小胞体膜に結合する疎水領域を持っていることから、3次元結晶だけでなく、2次元結晶を作製し、本研究科の宮澤淳夫研究室が有する超低温電子顕微鏡を用いた構造解析を行うことも計画している。 pATF6(P)の内腔領域に関しては、大腸菌や昆虫細胞での発現条件検討を更に進める計画である。内腔領域に人工的に変異を導入したり、哺乳類細胞や試験管内でのタンパク質発現系も検討する予定である。pATF6(P)の内腔領域はジスルフィド結合を形成するシステイン残基が存在し、細胞内では酸化的な環境でフォールディングされることから、酵母や大腸菌の分泌型の発現系(酸化的な環境で発現・フォールディングさせる)を検討することも検討している。哺乳類のprotein disulfide isomeraseを共発現することで、ジスルフィド結合の形成を促進することも有効ではないかと考えている。 どうしても大量発現できない場合や構造解析のための良好な結晶を得ることができない場合には、大学に隣接する理研播磨研究所のX線自由電子レーザー施設であるSACLAを利用し、単分子での立体構造解析を行う計画である。研究代表者が所属する兵庫県立大学大学院生命理学研究科は理研播磨研究所と緊密な連携関係にあり、当研究科の宮澤淳夫教授や小倉尚志教授の研究室は理研播磨研究所内にある。これらの人的・物的資源を活用し、pXBP1(U)やpATF6(P)の立体構造を明らかにする計画である。
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