2013 Fiscal Year Research-status Report
森林植物中の天然同位体トレーサーを用いた窒素同化過程の新解析法の開発
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25660112
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中川 書子 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70360899)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 三酸素同位体組成 / 硝酸 / 植物 / 窒素栄養 |
Research Abstract |
平成25年度(初年度)は、植物試料中の無機窒素化合物の抽出方法や、その分子別同位体組成定量法の確立など、準備研究を中心に行った。樹木を中心とした植物の個体内における硝酸やアンモニウムの同化過程を明らかにするため、本研究では、植物体内から硝酸等の無機窒素化合物の抽出を行い、各分子を一酸化二窒素に化学的に変換した上で、同位体組成を定量し、変換前の無機窒素化合物の同位体組成を算出する方法を利用した。樹木から硝酸とアンモニウムを水溶液として抽出する方法とそれを一酸化二窒素化する方法を確立するための基礎実験を中心に行った。前者は濃度測定用の方法を用い、後者は環境水試料用に確立した手法を用いた。基礎実験用に近隣の山林で採取した植物(ササ、マツ、ナラ、椿など)を用意し、純水を用いて外表面部を洗浄後、凍結乾燥・粉砕した上で、純水もしくは塩化カリウム水溶液等で植物中の無機窒素化合物の抽出方法を検討した。その結果、阻害成分の比較的少ない植物については植物中の硝酸の三酸素同位体組成の定量に成功し、最大+12パーミルもの大きな三酸素同位体異常が観測された。このことから、植物中には葉から直接硝酸を体内に取り込むプロセスが存在する可能性が示唆された。植物体内の硝酸の三酸素同位体組成は、植物中の窒素取り込み過程の違いを識別できる有用な指標となり得る事が示された。一方、マツなど一部の植物については阻害成分の除去方法も検討する必要があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度(初年度)は、植物試料中の無機窒素化合物抽出法およびその同位体組成分析法の確立を行うことを目標にしている。一部の阻害成分の多い植物以外の植物については、硝酸の三酸素同位体組成の定量に成功しており、それが植物中の窒素取り込み過程の違いを識別できる有用な指標となり得る事を示すことができたことから、研究の目的の達成度としては、おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度(2年目)は、大気由来の窒素負荷量が異なる2つの研究林(窒素負荷の小さい雨龍研究林〔北海道〕と窒素負荷の大きい生態水文学研究所の研究林〔愛知県〕)を対象に実試料の採取と分析を行って仮説の実証研究を行い、その結果を論文にまとめて報告する。 樹木の葉・根試料および周辺の土壌試料を採取し、直ちに硝酸等の無機窒素化合物を抽出する。また、土壌環境に関する各種パラメータ(pH, 水分量等)を現地で定量する。フィールドで採取した試料について、本申請研究で確立した手法によって、硝酸の窒素・三酸素同位体組成やアンモニウムの窒素同位体組成を定量する。また一部の試料については、亜硝酸の窒素・三酸素同位体組成や、有機態窒素の窒素同位体組成について同様に定量する。 各植物個体の各部位から抽出した硝酸等の無機窒素化合物の同位体分析の結果を、以下の順番と内容で解析する。硝酸の三酸素同位体組成の個体内での分布から、各部位毎の硝酸の供給源の差異の有無、特に葉面から吸収した窒素酸化物を利用した窒素同化過程を定量化する。個体内での濃度および窒素・酸素同位体組成(葉面吸収分を補正した値)の分布から、硝酸の同化過程を定性的に追跡する。各調査対象森林域の大気沈着由来の硝酸およびアンモニウムの同化(分解)量定量やその時間変化の制御要因の解析、さらにそのフィールド間の差異やその制御要因の解析等を進め、研究成果をまとめて欧文誌に投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の基礎実験よりも次年度の観測に使用する消耗品費が必要であると考えられたため。 観測用の消耗品費に充てる。
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