2014 Fiscal Year Research-status Report
医療訴訟判決の解析に基づく診療科別・疾患別医療安全工学的対応策の検討
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25670333
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
大磯 義一郎 浜松医科大学, 医学部, 教授 (80543909)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 奈美恵 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40435821)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 医療訴訟 / 医療安全 / 医療と法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、概ね当初の研究実施計画通りの進行が得られた。 具体的には、民間判例データベース及び東京地方裁判所医療集中部より得られた、平成11年以降に下された医療訴訟判決全1386例全てにつき、診療科ごと、疾患ごとに分類したデータベースを基に内科系診療科における診療科別、疾患別の判決文の争点を明らかとして、それらの争点に対し、医療安全上の視点から具体的、実用的な対応策を検討した。 本データベースでは、診療科別、疾患別に分類していることから、各診療科において、どのような疾患が訴訟となりやすいのかが明らかになるとともに、各疾患における診療過程において、どのような点に注意が必要となるかが明らかとなる。 消化器内科を例に挙げると、下部消化管疾患については、訴訟が多い順に大腸癌(20件)、イレウス(12件)、虫垂炎(6件)となった。この中でイレウスに関する訴訟の勝訴率は約66.7%と医療訴訟全体の勝訴率約33%より高く、平均請求額は約6700万円、平均認容額は約2100万円であり、医療訴訟全体の平均認容額よりも高額であった。これは、虫垂に関する訴訟における患者死亡転帰事例が75%と高いことが原因と考えられた。虫垂炎に関する訴訟で争点となっているのは、①診断②説明義務であった。その中で最も争われているのは、絞扼性イレウスの診断の見落としであった。裁判所は、初診時、入院後という時的要素を加味した患者の容態、便通状況、バイタルサイン、X線検査、CT検査、腹部エコー検査、鎮痛剤の効果等を考慮して総合的に判断を行おうという努力は認められるものの、絞扼性イレウスという診断が難しい疾患に対し、結果論で判断しているのではないかという疑念が残った。このような裁判所の傾向をみるに、絞扼性イレウスの診断見落としを回避するためには、小児の全身状態の悪いイレウス患者に対しては造影CTを撮影すべきと考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、概ね当初の研究実施計画通りの進行が得られた。 具体的には、民間判例データベース及び東京地方裁判所医療集中部より得られた、平成11年以降に下された医療訴訟判決全1386例全てにつき、診療科ごと、疾患ごとに分類したデータベースを基に内科系診療科における診療科別、疾患別の判決文の争点を明らかとして、それらの争点に対し、医療安全上の視点から具体的、実用的な対応策を検討した。 本データベースでは、診療科別、疾患別に分類していることから、各診療科において、どのような疾患が訴訟となりやすいのかが明らかになるとともに、各疾患における診療過程において、どのような点に注意が必要となるかが明らかとなる。 例えば、上部消化管疾患については、訴訟が多い順に胃癌(17件)、食道癌(8件)、胃潰瘍(2件)となっている。胃癌に関する訴訟の勝訴率は56%と医療訴訟全体の勝訴率約33%より高く、平均請求額は約6200万円、平均認容額は約3300万円であり、医療訴訟全体の認容額よりも高額であった。これは、胃癌に関する訴訟における患者転帰(死亡率)が約82.3%と高いことに起因していると考えられた。胃癌に関する訴訟の争点となっているのは、①診断②転送義務③説明義務であった。このように、各診療科、疾患ごとに裁判において何が争点となっているかを明らかにすることで、診療実務に寄与する対策を検討した。 なお、研究分担者である山田奈美恵が平成26年に妊娠、出産したため、循環器内科の検討を中心として、研究の一部に大幅な遅れが発生するとともに、山田担当分の研究予算の執行が一部繰り越されているが、現在、復職の上、研究を再開しており、年度末から現在にかけ、順次対応がなされ、全体としてみるとおおむね当初の研究実施計画通りの進行が得られていると評価できた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、研究を進めていく方針である。 平成27年度は、外科系の診療科につき、平成26年度と同様、診療科ごと、疾患ごとに分類したデータベースを基に明らかとなった争点に対し、医療安全上の視点から具体的、実用的な対応策を検討する。 消化器外科を例に挙げると、下部消化管疾患については、訴訟が多い順に大腸癌(20件)、イレウス(12件)、虫垂炎(6件)となった。大腸癌に関する訴訟の勝訴率は約47.3%と医療訴訟全体の勝訴率訳33%より高く、平均請求額は約6700万円、平均認容額は約1500万円であり、医療訴訟全体の認容額よりも高額であった。大腸癌に関する訴訟において争点となっているのは、①術後管理②手術適応③手技ミスであった。そしてその中で最も争われているのは、術後感染症であった。裁判所は、患者の熱、腹膜刺激症状、創部の状態、創部ガーゼの汚染状況、ドレーンからの排出液の状態、カテーテルの留置期間、白血球数、CRP値、血液ガス検査、X線写真、CT画像等を総合的に判断していた。 平成27年度は、外科系疾患について、このように具体的な争点を絞り込んだうえで、その争点に対して裁判所がどのような判断を下す傾向があり、それに対して医療安全の見地からどのような対策が立てられるかを検討していく予定である。 特に、外科系疾患は、急速に不幸な転帰となることが多いことから訴訟が多いことで知られている。一時期よりも減少したとはいえ、医師千人当たりの既済件数でいえば、一位が産婦人科で7.2件/年(毎年、産婦人科医千人当たり7.2名が医療訴訟の被告席に立っていることを意味する)、外科、整形外科がともに5.3/年であり、内科の2.3/年の倍以上となっている。昨今、ふたたび厳罰化の動きがみられる中、萎縮医療、医療崩壊とならないよう、医療安全に向けた取り組みが強く求められている。
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Causes of Carryover |
研究分担者である山田奈美恵が平成26年に妊娠、出産したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度山田分担研究分につき、順次執行していく。
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Research Products
(5 results)