2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25712030
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
大日向 康秀 山梨大学, 総合研究部, 客員准教授 (70415107)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 全能性 / 胚性幹細胞 / 栄養膜幹細胞 / 胚盤胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
唯一受精卵が有する厳密なる全能性、即ち胚発生能を支持する機構を解明し、試験管内で再構成することを最終の目的として研究を行った。マウスES細胞は胚盤胞に移植をすれば個体を構成する全ての細胞に分化できるが、ES細胞のみから個体を発生させた報告はこれまでにない。一方、受精卵は単一の細胞でありながら全能性をもつ。発生初期において受精卵は卵割を繰り返し、最初に栄養膜外胚葉(TE)系列と内部細胞塊(ICM)系列への細胞運命の分岐が起きる。これまでにTE系列からはTS細胞、ICM系列からはES細胞が樹立されている。ES細胞のみでは個体が発生しない合理的な理由として、ES細胞からはTE系列細胞が生じないことが挙げられる。とは言え、既存のTS細胞とES細胞の凝集によって胚の再構成に成功した報告もこれまでにない。ES細胞とTS細胞の混合による初期胚の再構築が実現しない一つの原因として、現存するTS細胞が初期胚のTEの性質を模倣できていないことが考えられる。本年度は増殖因子と低分子化合物の添加によって、より未分化な性質を示す新規TS細胞を樹立・維持することに成功し、報告した(Ohinata et al, PLOS ONE (2014)。ES細胞とTS細胞の混合による初期胚の再構築が実現しないもう一つの原因として、それらの単純な混合によっては初期胚様の立体構造を形成できないことも考えられる。本年度は新規TS細胞を無血清浮遊条件において培養することで、高効率にTE様の構造を誘導できることにも成功しており、現在報告に向けて準備中である。現在それらにES細胞を注入し人工胚盤胞を作製する研究を進めている。今後はES細胞およびTS細胞の質、初期胚様立体構造形成法のを行い、全能性の理論を解明すると共に幹細胞からの個体形成技術を確立するべく研究を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試験管内でES細胞とTS細胞を混合、配置し、全能性を再構成するためには、先ず第一に既存のTS細胞の質を改良し、胚盤胞におけるTEを補完できるレベルまで高める必要があると思われた。TS細胞は最初の報告以来、高濃度の血清、MEF条件培地にFGF4およびヘパリンを添加する方法で樹立・維持されてきたが、それらの胚盤胞注入等による胎盤への寄与能は十分でなかった。私はこの問題を解決するために血清やMEF条件培地を用いることなく、化学的に定義された組成の下、安定して未分化なTS細胞を樹立・維持する方法を確立するべく研究を行った。様々な増殖因子、低分子化合物等を用いた培養条件の半組織的探索の結果、N2B27/Neurobasal/DMEMF12(1:1)培地にFGF2、Activin A、XAV939、Y27632を添加し、フィブロネクチンコートを施した培養皿を用いることによって高効率にTS細胞を樹立・維持できることを見出した。新規TS細胞はES細胞に匹敵する速度で未分化な形態を保持したまま安定して増殖することができた。また新規TS細胞は栄養膜幹細胞および栄養膜外胚葉系列細胞の特異的遺伝子マーカーの発現解析によって既存のTS細胞よりも未分化な性質を保持していることが示唆された。また試験管内における分化においては栄養膜外胚葉系列の主要な派生細胞である巨細胞、スポンジ層栄養膜細胞、迷宮層栄養膜細胞のそれぞれに偏りなく分化する能力を保持していた。更に胚盤胞注入法によっては、胎盤の巨細胞、スポンジ層、迷宮層の全てに寄与する能力を保持していた。 このように既存のTS細胞よりも未分化な性質を保持したまま化学的定義培養条件下で安定してTS細胞を樹立する技術を確立した。しかし、キメラ形成実験においてTS細胞の胎盤への寄与率が当初期待した程ではなかったことから更なる改良の必要性も示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
TS細胞の更なる高品質化、胎盤への寄与率の向上を目的として培養条件の改良を引き続き行う。既にTS細胞の維持に効果のある数種類の低分子化合物を見出しており、それらを用い、培養下のTS 細胞において主要なシグナル経路に摂動を加え、胚盤胞注入後の寄与率への影響などを解析する。また胚盤胞への注入法以外の移植方法についても検討を行う。 同時にTS細胞を用いて試験管内で胚盤胞におけるTE様の立体構造を構築する研究も推進する。昨年度までに浮遊培養系を用いることでTE様構造を高効率に形成させる方法については確立した(未発表)。今後は上述のTS細胞の更なる質の改良を行うとともに、それらから形成されるTE様構造体の性質・機能についても偽妊娠マウス子宮への移植実験等によって検証していく。 更に試験管内で形成したTE様構造とES細胞を複合させることによって胚盤胞におけるTE-ICM構造を模倣する研究も実施する。それらについては最終的には偽妊娠マウス子宮への移植によって機能を検証する。
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Research Products
(4 results)