2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25770018
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
松下 俊英 大谷大学, 文学部, 非常勤講師 (10612765)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | インド仏教 / 瑜伽行唯識学派 / 『中辺分別論』 / チベット語写本 |
Research Abstract |
本研究は、大谷大学図書館所蔵のチベット蔵外文献に収められている、『中辺分別論』のチベット人(作者不明)による註釈写本を研究対象とし、当該写本の読解を目的とする。 世親が註釈をなした『中辺分別論』は、安慧のサンスクリット復註が現存し、それに基づき世親釈を読解することが瑜伽行唯識学派の思想研究の主たる方法である。しかし安慧釈の写本は右側3分の1が欠損している上、『中辺分別論』に対するインド撰述の註釈書は安慧釈以外現存しないことから、『中辺分別論』の正確な読解にはチベット撰述の註釈が重要な役割を持つ。よって本研究は、『中辺分別論』の内容理解の一助となる当該写本の読解を第一の目的とする。あわせて写本のデジタル撮影及び校訂テキストの作成を行い、両者をウェブ上に公開することを目指す。 本研究対象写本の体裁は、全55葉、縦11cm、横63cmの大きさで、『中辺分別論』の偈をウチェン書体の朱字で書き、世親による註釈をウチェン書体の黒字で書き記している。各葉の行数は1葉目が3行、2葉目以降は4行で書写されている。この写本の特徴は『中辺分別論』が記されている行間に、ウメー書体で細かな註釈がほどこされている点にある。註釈部のウメー書体は、ウメー書体の発展過程にある書体であり、敦煌出土チベット語文献にみられる書体に近い。また当該写本と同様、行間に註釈をほどこしているスタイルをもつ写本はタボ寺発見のチベット語文献の中にみられ、当該写本の価値も非常に高いことがわかる。このことから、写本本体を使用して研究することはできない。よって平成25年度は、対象写本のデジタル撮影を中心に行った。具体的には、ウメー書体が非常に微細であり複数枚の撮影は不可能であることから、一葉のみの撮影とし、全55葉の正確な画像データを作成した。そして同画像データを使用しながら、ウチェン書体及びウメー書体の翻字作業を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全55葉ある写本の撮影は完了し、正確な画像データを作成した。翻字テキストを作成する際は、当該写本の『中辺分別論』の偈については、北京版・デルゲ版をはじめとする大蔵経各版のテキストとの対校を行った。同様に世親釈についても大蔵経との対校を行った。 またウメー書体で記されたチベット語註釈は、複数の行をもち、コラムのような形式で、ウチェン書体で書写された『中辺分別論』の行間に点在している。コラムとコラムの間が不明瞭な場合があり、またそれぞれのコラムが『中辺分別論』のどの部分に対する註釈かが明確でないため、まずは細心の注意を払い、各コラムを区分し、そのコラムごとに翻字作業を実施している。翻字作業にはワイリー方式及びユニコード方式で作成している。ウメー書体が非常に細かく難解な部分も多いため、翻字作業と平行して翻訳作業を実行し、翻字の校訂を行っている。現在、両作業を継続している段階である。画像データ作成及び翻字・翻訳作業はおおむね予定通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、昨年度に引き続き、当該写本文献の精密な読解による翻訳作業とテキスト作成に努める予定である。当該写本はウメー書体が非常に微細であり、翻字作業に相当な日数を要する。平成26年度は、前半に翻字作業・翻訳作業を進め、後半は最終作業として翻字・翻訳の綿密な確認作業を行う。これらによって完成させたテキストを用いながら、再度『中辺分別論』の読解に取り組み、『中辺分別論』に説かれる「入無相方便」と「三性説」との関係を吟味する。それらの中で得られた成果を国内学会で発表し、論文投稿を行う。 加えて、研究協力者の協力を得ながら、撮影した当該写本のデジタル画像、及び作成した翻字テキストのウェブ公開を目指す所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
インド・チベットの各寺院には、未だ公表されていないチベット語写本が現存している。本研究対象の写本の厳密な年代測定及び異訳対比による読解のためには、同系統の異本のさらなる調査が必要である。このことから、平成25年度の研究計画ではインド・チベットにおける写本の調査を予定していた。しかし、調査対象としていた寺院等との日程調整がつかなかったこと、並びに国内での当該写本の読解研究に予想外の時間がかかったことにより、インド・チベットへの渡航ができなかった。 平成26年度は、昨年度実施できなかったインド・チベットにおける同系統の異本の現地調査を予定しているとともに、翻訳作業とテキスト作成、撮影した当該写本のデジタル画像、及び作成した翻字テキストのウェブ公開を目指す予定である。テキスト作成については、当該写本は特殊な文字で書写された字体であることから専門家による確認が不可欠である。よって、これらに関わる旅費、専門的知識の提供及びデータ入力に関わる協力者への謝金が必要である。また、当該写本の画像データ・翻字テキストのウェブ公開を行う予定だが、インターネット閲覧が困難な場合も想定し、大谷大学図書館と協力してデジタルデータの閲覧を可能にする記録媒体を設置する予定である。
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