2013 Fiscal Year Research-status Report
中国明末期書画論の基礎的研究―董其昌理論の変遷を基軸として―
Project/Area Number |
25770052
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
尾川 明穂 安田女子大学, 文学部, 助教 (20630908)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 明末 / 董其昌 / 書論 / 画論 / 題跋 / 法帖 |
Research Abstract |
本研究は、中国明末期の書画論を渉猟することにより、所謂「書の時代性説」「南北宗論」等で著名な董其昌(1555-1636)の理論を相対化しつつ、当時の書画理論がいかに展開したかを探るものである。主に、(1)董其昌書画論における、最終的な知見に至るまでの変遷とその契機を示すこと、(2)未公刊資料などから、同時代人の書画思想や、鑑賞・出版活動の実態を窺うことの2点に取り組んでいる。 本年度では、まず、董其昌以前に活躍した豊坊(1494-1569または70)の「筆訣」に着目した。これは現在、観峰館(滋賀県東近江市)に所蔵されている法帖で、豊の自筆論書が刻されたものである。王世貞(1526-90)の記録以降、日中においてその存在が確認されていないものと見られるため、六人部克典氏と共に翻刻、解題の執筆を行った。「筆訣」は、刊本として伝わる豊の書論『筆訣』『書訣』より早くに記された書論であることが判明し、刊本各本と比較した結果、豊は次第に初学段階を意識して論を展開していったことが確認できた。隷書から楷書への緩やかな接続を述べる記述が見られ、かような独特の書体観を抱いていたことも注目される。 また、董其昌書論についても扱い、顔真卿(709-785)書法に対する評価の変遷とその契機を探った。董は顔真卿書法を称賛し、また多く臨書・倣書を残しているが、いつ、どの書跡を重視したかは不明である。董の有紀年記述を時系列に従って確認した結果、51歳時に「蔡明遠帖」等顔書5帖以上を収める『鼎帖』を入手したことを契機に、顔を称賛するようになったと推測した。52歳時に顔書「大唐中興頌」の摩崖を訪れようとしたことも、その推定の根拠となりうる。また、58歳前後より顔書に注目しなくなったと見られ、その背景には、楊凝式(873-954)書跡への着目があったと推測した。なお、董の有紀年記述1件について、主張が他と大きく異なり、真偽の検討を要することを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の豊坊、董其昌書論個別の検討は予定通り進んでおり、今後の検討の柱となるものと考えている。ただし、この豊坊の未公刊資料の検討に慎重さを要したため、当初計画していた日中の漢籍所蔵機関における調査や、影印資料からの明末書画論の収集に遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該期書画論の網羅的把握は本課題に必須であるため、漢籍所蔵機関における調査や、影印資料からの明末書画論の収集に取り組み、これらの一覧化・翻刻を進めてきたい。資料が多くなる場合は、稀覯なものや、従来注目されてこなかったものを優先して扱いたい。 また、初学段階を意識した書画論に着目して、当時の一般的な書画理解を確認し、文人として活躍した董其昌らの主張との違いについて確認を進めたい。このために、董の書画論の変遷についても引き続き検討を行い、特に、「書の時代性説」成立の背景について考察を進めていく予定である。
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