2014 Fiscal Year Research-status Report
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25770076
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神田 祥子 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (50632452)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本近現代文学 / 視覚性 / 夏目漱石 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、19世紀における英国の美術論と漱石作品における絵画的要素の関係について、英国ロンドンにおいて実地調査を行い、『漾虚集』から『三四郎』までの作品に見られる「視覚性」についての分析と検討を進めた。具体的には、The National Gallery、Tate Britain、The Wallace Collectionに所蔵されるDelaroche、Waterhouse、Millais、Greuzeらの絵画作品と、作品内記述の比較検証、The Towers of London、National trust Carlyle’s House、倫敦漱石記念館の所蔵品、所蔵カタログと漱石手沢本書き入れとの照合などを行った。またこれらの調査結果をもとに『倫敦塔』『カーライル博物館』『草枕』『三四郎』に関する論文草稿の再検討を行い、合わせて注記などの充実を計った。 2、日本比較文学会第76回全国大会、日本近代文学会例会・秋季大会に出席し、研究発表・質疑応答を聴講した。ドイツ文学と漱石作品の関連等を始め、比較文学研究の最新の成果について、また近代における文学リテラシーの普及状況、「愛国」観の表現などを中心に日本近代文学研究の最新の成果についても、有意義な知見を得た。またミレイの絵画「オフィーリア」の受容状況など、日本近代文学の視覚性に関する研究についても、有益な知見を得た。 3、また明治初期文学における「恋愛」概念の表現方法などを分析し、京都造形芸術大学における公開講座内で2014年8月に講演を行うとともに、図版を交えた視覚性の影響などを合わせて分析しなおし、概説を執筆した。書籍『明治、このフシギな時代』(新典社、2015年9月刊行予定、共著)に掲載予定である(現在、入稿済み)。 4、上記の調査をもとに、書籍『漱石「文学」の黎明』(単著)を完成させ、2015年1月に青簡舎より刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度に行った作品分析に関わる基礎作業をもとに、26年度は英国での実地調査を行うことができ、研究成果を深めることができた。また作品内に登場する美術作品や、漱石が英国留学時に触れた美術作品などについても、今後のより実証的な検討が可能になった。なお東北大学での調査を予定していた美術資料の調査、科学関連書籍の調査は27年度に行い、26年度の成果を補強することとしたい。一方、27年度に刊行を予定していた著書は、やや早めて26年度内に刊行することができた。したがって、当初の予定から手順変更はあるものの、おおむね順調にしていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1、東北大学図書館漱石文庫における、芸術関連の漱石手沢本書入れ調査をさらに進める。「表現の視覚性」を検討する上で、また、ロココからラファエル前派に属するイギリス画家Blake、Hogarth、Rossettiの画集、またこれらの画家による作品を収蔵するThe National GalleryとTate Britainの展示カタログ、漱石が講読していた美術雑誌”Studio”等を予定する。これらの調査と、26年度に行った英国での調査結果を照合しつつ、漱石の美術受容をより包括的に分析したい。さらにAllen ”The Colour-sense: Its Origin and Development. An Essay in Comparative Psychology”など、科学的側面から造形芸術にアプローチする文献にも調査を拡大させ、「文学」と「科学」の相互影響についても視野を広げた研究を目指したい。 2、作品内の典拠となる西欧文学を取り上げ、その原典の日本への流入状況を調査し、漱石がどの程度読者の前提知識を期待しているかを考察する。特に美文的性格の強い「薤露行」と「アーサー王伝説」について漱石が原典としたMalory ”Le Morte Darthur”および Tennyson ”Idylls of the King”の東北大学図書館漱石文庫所蔵手沢本書き入れ調査を中心に行う。また、同志社大学図書館所蔵本「あーさー王英雄物語」等、日本で発行された訳本調査により、原典からの改変・採用の度合を分析し、外国文化を表現対象とした作品における表現方法との関連を検証する。 3、またこれらの成果をまとめ、研究論文の執筆と公的な発表を目指す。
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Research Products
(1 results)