2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25770263
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 創 東京大学, 総合文化研究科, 講師 (50647906)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ローマ帝国 / 地中海世界 / 都市 / 書簡 / リバニオス / アンティオキア / シリア |
Research Abstract |
本年度は主に、(1)リバニオス『書簡集』史料中に現れる人物情報の整理の徹底、(2)ローマ帝政後期都市に関連する資料のリストアップと収集に従事した。前者に関しては以前の研究で進められていたものをさらに進展させ、『後期ローマ帝国のプロソポグラフィ』をはじめとした関連する研究書や注釈書を利用しながら、人物同定についての様々な可能性を深めて総括することができた。具体的には、1,550通弱の書簡の名宛人や書簡中で言及される人物について、官職就任者であるかないか、あるいは、地方有力者であればどのような立場の人物で、どのような土地で活躍しているかといった基本的情報をまとめた。加えて、書簡中にはありふれていて峻別不可能な名前で呼ばれる人物や具体名を挙げられずに言及される人物が多いことから、それらについて時に先行研究の人物同定の問題を考えながら、分析を行った。なかには、それまで同時代の軍人として理解されていないものなど先行研究では十分把捉されていなかった人物同定まで踏み込んで分析することができた。他方、文献収集に関しては、国内大学図書館に不足している文献資料や事典類の収集に努めたほか、夏期にはバイエルン州立図書館での文献調査も実施した。本研究の主たる対象であるリバニオスに関連する文献の他、彼の活躍したシリアのアンティオキア市に近いキリキア地方やパレスティナ地方の政治経済に関する文献を調査した。これに付随して、ウィーン美術史美術館やパピルス博物館、ミュンヘン貨幣博物館などの公共施設を訪ね、帝政後期の都市に関連する考古学資料に関する情報を収集した。年度末には京都大学で開催されたワーキングショップに参加し、古代末期研究の最新動向をつかむこともできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
書簡史料の情報整理や、アンティオキア市研究に関連する文献調査についてはかなりの進捗が見られた。とりわけ、対象となる書簡史料の分析という中心的な課題はこなせたことから、初年度の目的は十分達せられたと考えている。また、当初は第三年度に予定していたヨハンネス・マララスや殉教者伝などのキリスト教系史料から伝えられる帝政後期都市像についても研究する機会があり、一定の成果を得ることができた。しかし、ヨーロッパ各地で古代末期研究がかなり活発になっている結果として、イタリアやスペインなど一部地域の研究情報を把握するまでに少し遅れが出てしまった。設定していた海外渡航の時期が早かったこともあり、文献入手が予定していたほど順調に進まなかった部分があった点は反省材料である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定通り、リバニオスの弁論史料を対象にして、ローマ帝政後期の都市政治に着目し、その背景にある人的ネットワークを分析する予定である。対象としては、祭典挙行に関連するもの数点と州総督弾劾に関連するもの数点を特に取り上げる予定である。これらは当時のエリート層の紐帯を築き上げていたギリシア的教養の都市社会での実践方法を垣間見させると共に、ローマ帝国行政のもとで都市エリートたちがその友誼関係、人的関係をいかに展開させることができたかを示す好例となりうるからである。両者に関連する近年の研究文献も初年度に入手済みであることから、弁論史料の精読を進めると共に、ここに書簡史料などから得られた知見も交えることで、ローマ帝国後期の地方行政の一端を明らかにすることを目指す。また、初年度に入手することが適わなかった文献を手に入れ、情報収集のため国際学会への参加も随時行う予定である。
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