2013 Fiscal Year Research-status Report
その場観察中性子小角散乱による水素貯蔵材料のナノ構造の解明
Project/Area Number |
25790080
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
岩瀬 謙二 茨城大学, 工学部, 講師 (00524159)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中性子 / 小角散乱 / 水素貯蔵 / ナノ構造 |
Research Abstract |
25年度は、その場観察中性子小角散乱測定用の試料セルの開発を行った。試料セルには、常温下において、水素ガスに対する耐圧性(最大ガス圧力1MPa未満)が必要である。中性子小角散乱測定では、測定試料の後方に検出器が設置され、試料セルを透過した中性子ビームを検出する。測定データから、透過率や透過スペクトルの形状を解析してナノ構造解析を行う。良質な散乱データを得るために、以下の1~3の開発工程を実施した。 1.窓部の材質・厚みの検討 2.耐圧性・ガス漏れ防止機構の検討 3.従来のセルと新規開発セルで標準試料の測定および実験データの比較 1.に関して、窓部の材質には中性子ビームの透過性が高いことおよび水素ガス圧に耐える強度を有することが必須である。そのため、窓部の材質にAl合金および石英ガラスを候補とした。窓部の厚さは、1mm, 3mm, 5mmで検討を行った。1~5mm厚のAl合金、石英ガラス材計6種の試験片の小角散乱測定を行い透過率の比較を行った。透過率の値から、材質に関してはAl合金より石英ガラスの方が優れていることが得られた。厚みに関しては、顕著な違いが観察されなかったことから、3~5mm厚となった。2.に関して、窓部材として石英ガラス3, 5mm厚を用いて水素ガス漏れの確認を実施した。水素ガス圧0.2MPa, 0.5MPa下でそれぞれ15分保持後ガス漏れは確認されなかった。その後、ガス圧1.0MPaで5時間保持後、ガス漏れは確認されなかった。3.に関して、水素吸蔵合金の中で標準的な吸蔵放出特性を示すLaNi5を用いてその場観察中性子小角散乱測定を行った。水素吸蔵前のLaNi5と重水素吸蔵後のLaNi5D5の小角散乱スペクトルを比較すると、吸蔵後のスペクトル強度が上昇し、重水素の吸蔵によってナノ構造が明らかに変化していることが分かった。合金と水素化物相間で明瞭なスペクトルの違いが観察できていることから、開発した試料セルが水素化物相の小角散乱測定に有効であることが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は、その場観察中性子小角散乱測定用の試料セルを開発することが目的であった。中性子ビームが透過する窓部の材質および厚さを決定することが最も重要であった。通常の小角散乱測定で使用されるセルと今回開発したその場観察測定用セルの透過率、小角散乱スペクトルの形状・強度を比較した。その結果、その場観察測定用セルのバックグランド強度が通常のセルより若干増加したが、透過率・スペクトル形状に明瞭な違いは観察されなかった。 通常セル・その場観察測定用セルを用いて、水素吸蔵前のLaNi5の小角散乱測定を実施した。小角散乱スペクトルはほぼ一致し、明瞭な違いは観察されていないことから、その場観察用測定用セルを用いて得られた小角散乱データに問題がないことが分かった。 その場観察測定用のセルを用いて、吸蔵放出過程のLaNi5Dxの小角散乱データを得た。水素吸蔵量の増加・減少に伴った小角散乱スペクトルの形状・強度が明瞭に変化していく様子を捉えることに成功した。開発したその場観察測定用セルを用いることによって、充分な質を有する小角散乱データを得ることが可能になったため、計画通りに順調に研究が進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は標準的な水素吸蔵合金であるLaNi5の測定を実施し、水素吸蔵前のLaNi5と水素吸蔵後のLaNi5D6のスペクトルを比較すると、q領域が0.1~0.2, 0.8~1.0nm-1でスペクトルの傾きが大きく異なりナノ構造がラフに変化していることが得られた。26年度は超格子型の水素吸蔵合金(LaNi6.0Al1.0,LaNi6.0Co1.0)のその場観察中性子小角散乱の測定を実施する。LaNi5合金の結晶構造は、空間群P6/mmm(六方晶)、格子定数a =0.39nm, c = 0.51nmである。超格子型の水素吸蔵合金の結晶構造は、空間群P63/mmc(六方晶)、格子定数a = 0.50nm, c = 2.4nmである。単位格子の大きさは、LaNi5と比べて遥かに大きく結晶構造は複雑化している。超格子構造の特徴はLa2Ni4の組成比をもつセルとLaNi5の組成比をもつセルが1:2の割合でc軸方向に積層している。25年度に測定したLaNi5で得られた結果を反映し、超格子合金の水素化物相のナノ構造の変化を捉えることを26年度に試みる。LaNi6.0Al1.0, LaNi6.0Co1.0は水素吸蔵放出特性が異なる。Niとの置換元素の影響(AlとCoの違い)をナノ構造の変化から明らかにすることを目的とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はその場観察測定用のセルの開発を中心に実施した。中性子ビームが透過する窓部の材質・厚さを最適化するために多数回(7回程度)のセルの試作を計画していた。試作の前に材質・厚さを慎重に検討し、試作を2回行った後に仕様を決定することができた。試作の回数が減ったため使用額が生じた。 その場観察中性子小角散乱を実施する前に、PCT測定(pressure-composition-isotherm)によって水素吸蔵放出特性を評価する必要がある。合金の組成比によっては低温下で水素ガス圧力を掛け、活性化処理を行う必要が生じた。既存の装置では、活性化が可能となる温度まで下げることができなかったため、詳細な特性評価を実施できていない。26年度に-60℃まで低温に保つことが可能な恒温装置を購入する計画である。
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