2014 Fiscal Year Research-status Report
低エネルギー不安定核ビーム実験用の薄膜偏極陽子標的の開発
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25800155
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
坂口 聡志 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70569566)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 不安定核 / スピン偏極 / 共鳴散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 室温での高い陽子偏極生成:偏極過程のメカニズムに関する基礎研究を行った。電子励起状態の寿命・緩和時間を導出し、光励起手法を改良することで、室温における陽子偏極を向上させた。また、得られた陽子偏極を移行することで、室温・低磁場における13C超偏極状態を生成した。上記の内容を投稿論文にて発表した。 2. 薄膜のp-タフェニル単結晶の作成:薄膜単結晶の生成の新手法として、昇華法を考案した。室温で安定なp-タフェニル結晶を、真空中にて180度まで加熱することで昇華させ、薄膜を得る。従来に比べて一桁近く薄い300um厚の結晶の生成に成功し、原理検証が完了した。次年度より大面積結晶の生成に適用する。 3. マイクロ波共振器開発:①共鳴散乱実験に特化した標的システム:テフロン膜で作成した従来の共振器に比べ、安定した動作と高い磁場強度が得られると期待される3ループ2ギャップ共振器を、電磁界シミュレーションソフトを用いて設計・製作した。設計通りの共振周波数を得た一方、マイクロ波の結合が想定より弱かったため、手法を改善して再試験する。②大面積化:マイクロ波共振器の直径を16mmから26mmへと大口径化し、陽子偏極生成の試験を行った。回路の改良により従来の2.4倍の磁場強度を達成し、最適な偏極条件を満たす事に成功した。これにより、標的の直径を従来の14mmから24mmへと変更し、統計データ量を4倍、S/N比を10倍に向上させることができる。本システムをRIBFにおけるp-6He弾性散乱実験に適用する。 4. 低エネルギービーム実験の準備:最終年度に実施予定の、p-9C共鳴散乱実験の準備を進めた。特に、小さな位置広がりを持つ9Cビーム生成の検討を行い、エネルギー減衰板としてRIPSビームライン標準のアルミニウム板の代わりにポリエチレン板を用いる事でビーム強度を2倍以上に改善できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である低エネルギー不安定核ビーム実験用の薄膜偏極標的の開発に必要な要素である、(1)薄膜結晶の生成、(2)室温での高偏極状態の生成、(3)標的の大面積化、(4)温度制御系の開発、の内、本年度の研究において、特に不確定性の大きい(1), (3)の原理検証が完了した。さらに、(2)についても基礎研究を行い、結果を投稿論文にまとめた。(2)に関しては、今後新波長レーザーの導入を行う。これらにより、原理的な困難の大部分を解消する目処が立ち、研究が順調に進展していると言える。
一方で、電気代不足などによる理研RIBFでの加速器マシンタイムの獲得の困難のため、予定していたp-6He弾性散乱実験、p-9C共鳴散乱実験は遂行できていない。そこで、実験セットアップや二次ビーム生成法の詳細な検討を行い、実験遂行時に最大限の結果を得られるように留意し、全体として研究成果の質・量を担保するよう研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の変更を行う必要はなく、従来の方針通り推進予定である。具体的には、共鳴散乱実験用大口径マイクロ波共振器の開発を完了し、共鳴散乱実験用標的システムの実証を行う。さらに、p-9C共鳴散乱実験を、理化学研究所RIPSビームラインにおいて2015年秋~冬に実施し、結果を発表する。
また、偏極度向上のため、下記の開発も並行して行う。1. 新波長レーザー導入:ペンタセン分子の最大光吸収ピークである590nmの波長のレーザーを、理化学研究所仁科センターと理研光グリーンテクノロジー特別研究ユニットで共同開発した。これを標的システムに組込む事で、偏極度の向上を試みる。2. 温度制御系の開発:基礎開発において、室温領域では300K付近で最も高い偏極度が得られる事が明らかになった。レーザー照射による温度上昇を抑制するため、標的ホルダー経由の接触冷却を行う。
大口径マイクロ波共振器の設計と実証についての開発内容を投稿論文にまとめ、発表する。また、室温・低磁場における低エネルギービーム実験用の偏極標的の開発内容を別の投稿論文にまとめ、発表する。
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Causes of Carryover |
26年度に予定していた理化学研究所におけるマシンタイムが、27年度に延期された。このため、マシンタイム直前に準備する必要のある物品の購入費、及び実験遂行のための旅費の確保のため、必要額を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
通常の助成金と同様に使用する。
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Research Products
(10 results)