2013 Fiscal Year Research-status Report
熱処理を必要としないアノード酸化法による高結晶性TiO2メソポーラス薄膜の創製
Project/Area Number |
25810132
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
辻 悦司 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80610443)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アノード酸化 / 熱処理不要 / 結晶化 / メソポーラス / 酸化チタン |
Research Abstract |
酸化チタンは防汚・浄化技術や、色素増感太陽電池、化学センサーなど様々な分野に応用されているが、その多くは結晶化や焼結のために450℃程度での熱処理が必要である。これに対し、申請者はこれまで熱処理を必要としないリン酸含有高温グリセリン溶液中でのチタン基板のアノード酸化により、アナターゼ型結晶を含む酸化チタンメソポーラス薄膜(TMP薄膜)の合成に成功している。しかしアモルファスも多く含んでおり、更なる高結晶化が必要なのが現状である。そこで本研究では、結晶化を支配する要因を解明し、熱処理を必要としない高結晶性酸化チタンメソポーラス薄膜の合成を目的とする。 初年度は、「アノード酸化法を利用したTMP薄膜合成における結晶化支配要因の解明」を中心に研究を進めた。これまで二電極系で行われていたアノード酸化に対して、三電極系を導入した。三電極系を導入することで、これまで考慮できていなかった溶液抵抗による電位ロスが軽減され、精密なアノード酸化が行えるようになった。またアノード酸化を動電位に変えて行うことで、溶液中の酸素種の拡散がTMP薄膜生成の律速過程になっていることを見出した。アノード酸化によるポーラス薄膜生成において、このような反応過程が律速になることは珍しく、これがTMP薄膜の特異的構造形成の一因であると考えられる。 次にTMP薄膜中に少量混在する不純物が与える結晶化の影響を評価するために、アノード酸化用の新たな塩について検討した。その結果、新たに水酸化カリウムのみでもアノード酸化できることを見出した。これにより、薄膜中にリン酸イオンや炭酸イオンといった不純物を一切含まない酸化チタン薄膜の合成に成功した。また、こうして得られた酸化チタン薄膜では、20 Vで成膜した際にも結晶化が全くおこらず、リン酸種が結晶化を引き起こしていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は予定していた「アノード酸化法を利用したTMP薄膜合成における結晶化支配要因の解明」を目的に研究を進めた。三電極系の導入によりアノード酸化における電位制御がより精密に行えるようになった。また、動電位でのアノード酸化を行うことで、薄膜生成における成膜速度支配因子の解明にも成功した。 一方、当初は三電極系アノード酸化を用いて、結晶化しやすいリン酸塩を用いた場合と、結晶化は進むもののリン酸塩に比べ結晶性が低くなる炭酸塩を用いた場合とを比較することで、不純物が与える結晶化への影響を検討する予定であった。これに対し新たに水酸化カリウムを用いることで、不純物となるアニオン(リン酸イオンや炭酸イオンなど)を一切含まない酸化チタン薄膜形成に成功し、より明確に不純物の影響を見ることができるようになった。こうして得られた膜は生成電圧20 Vにおいてもアモルファス構造を維持したことから、リン酸イオンが結晶化を引き起こす要因であることを明確に示すことができた。以上より、当初の予定通り、おおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、「アノード酸化法を利用したTMP薄膜合成における結晶化支配要因の解明」について研究を進める。動電位アノード酸化による膜の生成挙動のより詳細な解析を進めると同時に、リン酸塩の効果を明らかにするために、XPSやIRによるリン酸種の化学状態を調べる。 また「TMP薄膜の結晶性の向上」についても検討を進める。これらリン酸塩含有高温グリセリン溶液を用いるアノード酸化では、アノード酸化時の電流値が非常に大きくなるため、印加する電圧は制限されてきた。しかし、これまでの研究によりプロトン濃度を上げることで、電流値の抑制が可能であることが示唆されている。そのため、プロトン濃度の調節することで電流値を下げ、より高い電圧を印加できるようにすることで、印加電圧の上昇による結晶性の向上を試みる。一方、前年度の研究において、水酸化カリウムを用いることで不純物を含まないTMP薄膜の合成が可能となったため、これらに硫酸塩やホウ酸塩を加え、結晶化を試みる。水溶液中でのアノード酸化によるバリヤー型酸化チタン薄膜の合成では、古くから結晶化が進行することが知られている。これらの知見をもとに、どういった塩が結晶化に有利に働くかを検討し、高結晶性TMP薄膜の合成を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定に比べ、消耗品への使用額が軽減され予算に余裕が生まれた。 平成26年度分と合算して、今後必要となる装置使用料や消耗品などへと使用する。
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