2014 Fiscal Year Research-status Report
発光レポーター遺伝子による養殖魚の残留農薬モニタリング
Project/Area Number |
25850135
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
二見 邦彦 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (00513459)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ティラピア / PXR / EPC細胞 / ルシフェラーゼ / ツーハイブリッドシステム / 転写活性 / ヘテロ二量体 |
Outline of Annual Research Achievements |
食品中への農薬類およびそれらの代謝物の残留はポジティブリスト制により規制されており,生産段階での適切なリスク管理がより一層求められている。しかしながらここ数年,養殖生産の過程では使用しないはずの農薬が一部の養殖魚から検出されている。養殖魚における農薬の残留を未然に防ぐために,十分なモニタリングがなされていることを保証するシステムを確立することが緊急の課題である。 本研究では,ルシフェラーゼ発光遺伝子をレポーターとして用いた残留農薬モニタリングシステムの開発を目的としている。これまでに,農薬曝露で発現が上昇する遺伝子としてPXRの標的遺伝子P-gpを同定したが,平成26年度は,さらなる候補遺伝子を探索するために,エンドスルファンおよびロイコマラカイトグリーン(LMG)を経口投与したティラピア肝臓の全RNAを用いて次世代シークエンサーによる網羅的解析を行った。その結果,これらの薬物により発現が上昇/低下する遺伝子が複数同定されたが,現在までに生物学的な意味を読み取れるパスウェイは見いだせなかった。 そこで,研究の焦点をPXRに絞り,PXRおよびRXR発現コンストラクトをティラピアP-gpプロモーターにルシフェラーゼ遺伝子を連結したレポーターコンストラクトとともに魚類培養細胞株EPCに導入した。遺伝子導入後にLMGを曝露したところ,PXR/RXRのP-gpに対する転写活性に変化は見られなかった。一方,遺伝子導入後にマラカイトグリーン(MG)を曝露したところ,PXR/RXRの転写活性がMG濃度依存的に減少した。次に,EPC細胞を用いたツーハイブリッドシステムによりPXRとRXRのタンパク質間相互作用を解析したところ,MGはPXRとRXRのヘテロ二量体形成を阻害することでP-gpの発現を抑制することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに,農薬曝露で特異的に発現が上昇する遺伝子として,PXRの標的遺伝子を候補遺伝子アプローチにより同定していた。平成26年度はこれに加え,エンドスルファンおよびロイコマラカイトグリーン(LMG)を経口投与したティラピア肝臓の全RNAを用いて,次世代シークエンサーによる網羅的解析を行った。その結果,これらの薬物により発現が上昇/低下する遺伝子が複数同定された。現在までに生物学的な意味を読み取れるパスウェイは見いだせていないが,GSEA解析やクラスタリングなどをさらに進めていくことで,新たな候補遺伝子やパスウェイを特定できる可能性が得られた。 また,PXRおよびRXR発現コンストラクトを,ER-6,DR-3(PXR/RXRの結合部位)またはP-gpプロモーターにホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結したレポーターコンストラクトとともに,魚類培養細胞株EPCに導入した。魚類培養細胞株の中には遺伝子導入効率が低いものも多いが,本研究では複数の遺伝子導入試薬を試みたことで,以降の解析に十分な導入効率を得ることができた。これに種々の農薬類を曝露したところ,LMGおよび有機リン系農薬(クロルピリフォス,マラチオン)の曝露では,PXR/RXRの転写活性に変化は認められなかったものの, MGを曝露したときにはPXR/RXRの転写活性が濃度依存的に減少することが明らかとなった。実験の再現性はいずれも高く,今後の詳細な解析が期待できる。 なお,モニタリングとしては,ルシフェラーゼ活性が濃度依存的に上昇するものの方が適しているため,PXR以外の受容体についても同様に調べる必要がある。そこで平成26年度では,ティラピアAhRおよびそのパートナー分子Arntの発現コンストラクトについても作製した。
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Strategy for Future Research Activity |
いくつかの農薬は,PXRとRXRのヘテロ二量体形成を阻害したことから,PXRはRXRと入れ替わるように核内受容体コリプレッサーと結合することが予想される。そこで,平成27年度はPXRの核内受容体コリプレッサーであるNCOR1およびSMRTの発現コンストラクトを作製し,PXRとの相互作用をツーハイブリッドシステムにより明らかにする。また,本システムの検出感度を上げるため,培養条件や細胞株の再検討,pIRESバイシストロン性発現ベクターやバイディレクショナル発現ベクターなどを用いたコトランスフェクション効率の改善なども試みる。 また,本研究で用いている農薬類には,①ベンゼン環をもち,②分子サイズが小さく構造が単純で,③生分解性が低いといった特徴をもち,内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質にリストアップされているものも多い。そこで,平成27年度は,PXRやAhRの系に加え,エストロゲン受容体(ER)についても着目する。ERはPXRと同様,核内受容体のひとつであるため,これまでの手法をそのまま使うことができる。ティラピアには3種のERが存在するため,今後はこれらのコンストラクトを作製し,ERのホモ二量体およびヘテロ二量体形成能を明らかにする。さらに,PXRやAhRとのクロストークの有無についても調べ,農薬類の魚毒性や魚類における薬物代謝のメカニズムについて細胞レベルでの知見を深める。 さらに,農薬を曝露したティラピアの血液,組織ホモジネートを有機溶媒やQuEChERS法などで前処理したものを上記の培養細胞に加え,ルシフェラーゼ活性を測定する。これにより,血液,組織ホモジネートの細胞毒性や内在性リガンドの有無などを明らかにし,本システムの実用可能性について検討する。なお,本実験では,毒性に強いCHSE-214細胞の使用についても検討する。
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Research Products
(2 results)