2014 Fiscal Year Research-status Report
トルコ農村社会の異質性と社会的ネットワークの機能に関する経済学的研究
Project/Area Number |
25850158
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
草処 基 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (90630145)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 社会的ネットワーク / 農村経済 / 格差 / 労働市場 / 土地市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
途上国農村に住む人々は、親戚・友人、農村内の組織など、個人が属する社会内の他者とのつながりを利用して様々な経済活動を営んでおり、このような社会的ネットワークが農家経済・農村経済の発展の基盤になっていることが明らかにされつつある。だがその一方で、貧困家計が社会的ネットワークの側面でも不利な状況にあった場合、社会的ネットワークの格差が経済的格差の維持や拡大につながってしまう恐れがあることも指摘されている。 本プロジェクトでは、灌漑の普及による生産性の上昇に伴い、外部から農業労働者が流入したため、非移住家計と移住家計との間に社会的ネットワークの格差が生じていると考えられる、トルコ共和国アダナ県の灌漑地域を調査対象とし、社会的ネットワークの格差が農村経済や農村内の経済格差に与える影響について調査・分析を行っている。 本年度は、まず、前年度に現地で行った家計調査のデータを解析し、農家と季節農業労働者間には、特に質的な側面で社会的ネットワークの格差が生じていることを明らかにした。季節農業労働者は農村コミュニティから区別されている可能性が明らかになった。 この分析結果を受け、本年度は、季節労働者家計の雇用契約に着目し調査を行った。現地では、季節労働者の多くが、仲介人を通して農家と労働契約を結んでおり、仲介人は農家と季節労働者の間をとりもつ役割を果たしている。調査対象地の季節農業労働市場において、仲介人が機能していれば、季節労働者は農村コミュニティと十分にネットワークを築いていなくても、十分な労働日数を確保できると考えられる。この仮説を調査データを用いて検証した結果、仲介人を通さない場合、季節労働者の被雇用日数は労働者のもつ社会的ネットワークに依存するが、仲介人を通した契約の場合、季節労働者の被雇用日数は社会的ネットワークに左右されないことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、社会的ネットワークの格差が農村経済や農村内の経済格差に与える影響について明らかにするため、灌漑の普及による生産性の上昇に伴い、外部から農業労働者が流入したため、非移住家計と移住家計との間に社会的ネットワークの格差が生じていると考えられる、トルコ共和国アダナ県の灌漑地域を調査対象とし、調査・分析を行っている。 H25年度に、調査対象地の階層間の社会的ネットワークの格差を把握するための調査を行った。この調査データをもとに、H25年度から本年度にかけ、農家・季節農業労働者間及び移住農家・非移住農家間の社会的ネットワークの格差についての分析を行った。この分析により、農家・季節農業労働者の間には特に質的な側面で社会的ネットワークの格差が生じていること、その一方で、移住農家と非移住農家との間では、明確な社会的ネットワークの格差が存在していないことが明らかになった。この分析結果は学術雑誌に公表された。 本年度の9月に、上記の分析結果をもとに現地調査を行い、労働市場や土地市場と社会的ネットワークとの関係性を検証するためのデータを収集した。労働市場に関するデータを用いて、農家と季節労働者間の社会的ネットワークの差を補完する役割をもっていると考えられる仲介人の機能についての定量的な分析を行った。この中で、仲介人を通さない場合、季節労働者の被雇用日数は労働者のもつ社会的ネットワークに依存するが、仲介人を通した契約の場合、季節労働者の被雇用日数は社会的ネットワークに左右されないという結果が得られている。 以上のように、これまで、調査対象地域の社会的ネットワークの把握に続き、社会的ネットワークと労働市場との関係性についての分析を行うことができている。本研究は、現在までおおむね順調に進展していると評価してよいと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
H27年度の前期中に、労働市場における仲介人の役割と社会的ネットワークに関する分析結果を英語論文としてまとめ、学術雑誌に投稿する。また、H26年度に収集した土地市場に関するデータを用いて土地市場と社会的ネットワークに関する予備的な分析を行う。 この分析結果をもとに、土地市場に関する分析をさらに進めるために必要な調査内容を吟味し、H27年度の9月以降に予定している調査計画を確定する。 調査対象地域であるトルコ共和国アダナ県は、トルコの南部に位置し、シリア国境と比較的近い位置にある。現在のところ、渡航延期などの勧告は出ていないが、アダナ市や周辺の農村部にシリア人の難民キャンプが設置され、現地住民との間のトラブルなども報告されている。このため、本年度の調査は現地の治安状況を見極めながら調査時期を決定する必要がある。治安状況が悪化した場合には、調査を中止せざるを得ない可能性もある。本研究は現地調査を主体として計画されているため、本年度の調査も研究の遂行上欠かすことはできない。このため、調査を中止せざるを得ない場合には、研究期間の延長を申請する予定である。
|
Causes of Carryover |
学内業務及び、他のプロジェクトに関連した学会発表との関係から、当初予定していた調査日数よりも現地調査の日数を減らさざるを得なかった。このため、旅費や現地調査時の通訳謝金が予定していた支出額より少なくなり、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
発生した次年度使用額は、次年度の現地調査において統計分析に耐えうる調査件数の確保のために使用する予定である。また、研究成果を取りまとめていくために、国内のトルコ研究者から研究成果に対する助言を得るための旅費に利用する予定である。
|