2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26220603
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
谷口 正輝 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (40362628)
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Project Period (FY) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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Keywords | 1分子シークエンシング / ペプチド / 1分子科学 / トンネル電流 / ナノギャップ電極 |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝子機能をスイッチし、疾病マーカーや細胞分化の決定因子となる修飾塩基分子の中で最も重要であるメチル化シトシンを含むDNAの塩基配列決定を、1分子シークエンシング法を用いて行った。特に、疾病マーカーとなるメチル化シトシンは、グアニン・シトシンのリピート配列に発現することが知られているため、このリピート配列を持つ合成DNAを計測対象にして計測を行ったところ、メチル化・非メチル化の識別に成功した。また、トンネル電流が電極間を通過する分子数をカウントできる機能を利用して、計測サンプル中における修飾・非修飾DNAの存在比を求め、塩基配列と存在比を決定する定量解析を行ったが、十分な定量解析には至らなかった。 がんの予防・予後診断への応用が期待されているマイクロRNAの塩基配列決定を、1分子シークエンシング法を用いて行った。がんマーカーとして知られるLet7ファミリーのうち2種類のマイクロRNAの混合溶液を計測対象として、塩基配列と存在比を同時に決定する定量解析を行った。7塩基以上の断片配列を用いて塩基配列は決定することが出来たが、十分な定量解析には至らなかった。 開発してきた1分子シークエンシング法では、ブラウン運動で確率的にナノ電極間に進入する1分子を計測するため、単位時間当たりのシグナル頻度が極めて低い。この課題を解決するため、ナノデバイス構造に電圧印加できる1対のナノ電極を追加し、電気泳動により、DNAを効果的にナノ電極間に引き入れることで通過確率を増加させる1分子速度制御技術の開発を行った。電気泳動電極と流路の構造の最適化により、センシング電極領域に電気泳動電圧を効果的に印加できるようになった。配列決定と定量解析を行える限界濃度を明らかにするため、シグナル頻度のサンプル濃度依存性を評価したが、明確な濃度依存性が観察されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、2年次に計画していたペプチドの部分アミノ酸配列決定と、3年次に計画していた疾病マーカーである修飾アミノ酸分子の1分子識別に成功し、2種類の混合ペプチドの定量解析は予想外の進展であった。本年度、DNAにおけるメチル化シトシン等の修飾塩基分子の1分子識別と、疾病マーカーとなるマイクロRNAの塩基配列決定に成功した。さらに、検体のシグナル頻度を増加させるために、電気泳動機構を導入したナノデバイスの開発を行い、センシング電極が設置されたナノ流路に効果的な電気泳動電圧を印加することに成功した。一方、化学修飾・非修飾DNAと2種類のマイクロRNAの塩基配列と分子数を決定する定量解析を行ったが、十分な定量解析には至らなかった。また、1分子シークエンシング法の課題であったシグナル頻度とサンプル濃度依存性を研究したが、明確な濃度依存性が観察されなかった。高いシグナル頻度と明確な濃度依存性が観察されなかったのは、センシング電極に導入される検体が、センシング電極近傍のわずかな検体のみであり、大多数の検体がマイクロ流路内に留まっているため、十分なシグナル数が得られなかったことが原因であると流体シュミレーションから示唆された。また、流体力学、電磁気学、およびイオン輸送を含むマルチフィジックスシュミレーションを用いて、センシング電極が設置されたナノ流路内の電場および流体を解析したところ、多くの検体がセンシング電極直下のナノ流路内を流動していることが示唆された。サンプル中の検体をマイクロ流路からナノ流路、センシング電極へと連続的に輸送する方法の開発とその学理構築が、検体のシグナル頻度を増加させる重要な課題であることが明確となった。
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Strategy for Future Research Activity |
検体の単位時間当たりのシグナル頻度を増加させ、定量解析を行い、検出限界濃度を調べるためには、マイクロ流路内の検体を如何にセンシング電極が設置されているナノ流路に効果的に輸送し、ナノ流路の入り口に到達した検体をセンシング電極まで輸送するかがカギとなる。現在のマイクロ流路とナノ流路の体積比が10万:1と非常に大きいため、濃度が均一と仮定すると、ナノ流路内の検体量は仕込み量の10万分の1でしかない。まず、この体積比を小さくするため、マイクロ流路の長さ・断面積を縮小するとともに、ナノ流路の入り口付近にコレクター用のナノ構造を設置し、入り口付近で検体の濃縮を行うマイクロ・ナノ流路を開発する。一方、ナノ流路の入り口付近の検体を電気泳動でセンシング電極に効果的に導入するため、断面積を縮小させたナノ流路を開発する。さらに、電気泳動電圧による電界で検体を一定方向に流動させるため、センシング電極を絶縁体で被覆し、センシング電圧と電気泳動電圧による電界干渉を最小化する。マイクロ流路、ナノ流路、センシング電極へと検体を連続的に輸送する理想的なナノ構造は、直径20nm程度の貫通孔に電極間距離が1nm程度のナノギャップ電極が融合した構造であるため、微細加工技術と通電断線法を融合して理想的なデバイス構造の開発を行う。 これまでの生体高分子の計測では、最大の1分子コンダクタンスを持つ分子を基準にして、1分子識別を行ってきた。2年次の研究が終了した時点で、DNA・RNAの塩基配列決定とペプチドの部分アミノ酸配列決定を行い、1種類の生体高分子の1分子解析には成功した。今後、複数種の生体高分子の塩基・アミノ酸配列と溶液中の各種の存在比を求める定量解析を行うためには、検体に依存しない外部標準物質が重要になる。このため、分子シュミレーションと1分子コンダクタンス計測を融合して、生体高分子と相互作用の弱い外部標準物質の探索を行なう。
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Research Products
(20 results)